がん再発で退職時の傷病手当金は慎重に検討

がんの場合、初発で一回傷病手当金を受け取り、その後再発・転移してから傷病手当金を申請することがあります。

しかし、今回うまくいかず申請できなかったというケースがありました。

様々な要因があった訳ですが、同じような状況の方の参考になればという思い、ご本人の了承を得たうえでがん患者さんのお金の専門家として今回の内容を振り返りたいと思います。

傷病手当金とは

傷病手当金1年6ヶ月

傷病手当金はがん患者さんにとっての休業保障として、治療費や生活費としてとても役に立つ制度の一つです。
詳細は「がん治療中に傷病手当金が支給されないケースと2回目も支給されたケース」をご覧ください。

傷病手当金は健康保険の制度の一つで、基本的に一傷病につき一回しか使えません。

しかし、がんの場合は初発のがん治療を終え数年間復職した後、再発や転移などで再度休職するという場合があります。

この場合、「社会的治癒」に該当するともう一度傷病手当金を受け取ることが可能となる場合があります。

誤解されやすいのが、この社会的治癒というのは医学的判断だけではなく、社会通念上かどうかという点です。

同一の疾病又は負傷とは、「一回の疾病又は負傷で治癒するまでをいうが、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状をも認めずして相当期間就業後同一病名再発のときは、別個の疾病とみなす。通常再発の際、前症の受給中⽌時の所⾒、その後の症状経過、就業状況等調査の上認定す(る)。」

昭和29年3月保文発第3027号・昭和30年2月24日保文発第1731号

傷病手当金を申請しなかったケース

リモートワーク

今回、卵巣がんが再発し、治療中のJ.Tさん(40代、女性)のケースを振り返りたいと思います。

J.Tさんは5年前に卵巣がんと診断され、手術・化学療法を行いました。
その時、傷病手当金を申請し、受給しました。
1年ほど治療した後、職場に復帰し、2年間働いていました。

初発から3年後に再発し、その際に傷病手当金の社会的治癒に該当するのではと考えたJ.Tさんは、病院のがん相談支援センターで傷病手当金について確認したところ、医療ソーシャルワーカーでは判断できない内容であったため、病院に来ている社会保険労務士に確認されたそうです。

社会保険労務士の返答は「2年間というのは、難しいのではないか」でした。

その後J.Tさんは住まいの管轄の協会けんぽ(全国健康保険協会)の傷病手当金担当者に確認したところ、「件数は少ないが、ゼロではない」との返答を確認しましたが、病院でも難しいと言われてしまったので、あきらめてしまったとのことでした。

社会的治癒の観点から考える

健康保険証

社会的治癒の点から考えますと、正直医療ソーシャルワーカーには判断が難しい内容ですので、社会保険労務士に確認されていた点は正解だと思います。

社会保険労務士の判断として「2年間」が正しかったのかどうかは、協会けんぽの担当者の内容と若干異なっているため、わかりません。最終的には傷病手当金の判断は健康保険組合が審査するので、もしかしたら申請してみないことにはわからなかったケースかもしれません。

ただ、今回のケースは社会的治癒だけではないような気もします。

そもそも傷病手当金の受給要件を満たしていたのか

傷病手当金待期期間

J.Tさんから、お話を詳しく聞いたところ、再発が分かった時点で職場の皆さんに迷惑がかかると思い、退職を決めたそうです。

そして、再発後の治療開始は在職中ではありましたが、化学療法1クール目は休職も必要ないほど体調に変化が無かったと言います。

実際に副作用がつらくなってきたのは退職後に実施された2クール目からだそうです。

これを聞き、私は「社会保険労務士は社会的治癒だけでなく、退職前の傷病手当金の受給要件を鑑みて可能性を説明されたのではないか」と考えました。

実際にその場にいなかったので、振り返りのみになってしまいますが、傷病手当金は最長で1年6ヶ月受給できる生活の糧となる大切な制度です。

2年間ならさかのぼって申請可能ではありますが、退職が絡むと傷病手当金が難しい場合に雇用保険の失業給付を申請し、受給されると「働ける状態」となるため、さかのぼって傷病手当金の申請はできなくなります。

つまり、退職時の傷病手当金はかなり慎重に検討していかないと、生活や治療にも影響してくる可能性があるということです。

今回のように、再発で社会的治癒が関係してくるとさらに複雑化してきますので、がん患者さんの相談に携わる者は断片的に判断せず、今後の方向性を予測しながら丁寧に制度の申請にあたらなくてはならないと改めて感じました。

再発や退職時は今後の生活設計を考えた上で慎重に傷病手当金を検討

大事なこと

今回のケースは、関係者全員が間違った対応だとは言い切れないものの、もう一歩踏み込んで「退職前に利用できるものはないか」「今後の生活設計まで予測した制度選択」をJ.Tさんと一緒の目線で話し合えていたら、もっと違う結果になっていたのかもしれないと感じました。

また、これは私が病院で勤務していた時から感じていたことでありますが、医療従事者は「生活保護」のハードルが低いです。

今回、J.Tさんも傷病手当金が難しいとなった時点で生活保護を切り出されたそうです。

生活保護を選択せざるを得ないケースも病院では多々ありますが、生活保護を選択するまでにできることはたくさんあります。
がん治療中、生活保護を決断する前にできること」にも記載してますが、このあたりはまたまとめていきたいと思います。

なぜ、傷病手当金が支給されなかった53歳の大腸がんの彼が、
たった1時間で生活保護以外の選択肢が見つかったのか?

筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門の家計相談を行っています。2016年より全国から350名以上のご相談を担当してきました。東京都、埼玉県のがん専門病院などで家計相談員も務めています。気になることがありましたら、お気軽にご連絡ください。

書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)