がん治療中に傷病手当金が支給されないケースと2回目も支給されたケース

これからがん治療が始まり、傷病手当金の申請を考えている人、休業補償について知りたい人向けの内容です。

傷病手当金の概要と、患者さんからの質問に多い「どんな場合に申請しているのか」について、がん患者さんのお金の専門家 看護師FP黒田が解説します。

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会社員・公務員の休業補償「傷病手当金」の概要

がん患者さんも多くの方が利用している傷病手当金(雇用保険の傷病手当とは違います)について、取り上げたいと思います。

最近では高額療養費とともに病院の方から説明を受けている患者さんも増えていますが、お聞きになったことはありますか?

2022年1月からは通算化になり、患者さんからの質問も増えています。

簡単に説明するとこんな制度です。

  • 会社員や公務員がケガや病気で休職したとき、以下の条件を満たした場合に加入している健康保険から支給
  • 国民健康保険には無い制度なので、自営業や主婦、学生などには無い。
  • 患者さん本人が給料から天引きされていた健康保険料による健康保険の給付のひとつ(会社が負担するわけではない)

ここからは中小企業が加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)をもとに概要を説明します。

条件

(1)業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

(2)仕事に就くことができないこと

(3)連続する3日間(待機3日間)を含み4日以上仕事に就けなかったこと

(4)休業した期間について給与の支払いがないこと

全国健康保険協会ホームページより

給付金額

(支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷30日×2/3

給料の約2/3と言われているのはこのことです。

支給される期間

・傷病手当金が支給される期間は、支給開始した日から通算で1年6ヵ月(➡「傷病手当金が通算1年6ヶ月に変更となると、がん患者への影響は」

・就業不能であったことの医師の証明が必要

全国健康保険協会ホームページより

申請の手順

1.支給申請書を取り寄せる

2.請求書の申請者(患者さんご自身)の部分を記入する

3.請求書の医師・会社の担当者に記載してもらう、出勤簿や賃金台帳コピーももらう

「傷病手当金は思ったより時間がかかった」という方が多い理由は、ここにあります。

患者さんが休んだ実績に対して医師が就労不能であると記載し、会社からも実際に休んだという証明のもと申請し、保険組合や協会けんぽ(全国健康保険協会)による審査が通り、はじめて支給されるというためです。

3ヶ月ほどかかっている方もいました。

傷病手当金についてより詳しく知りたい場合、協会けんぽの方は全国健康保険協会ホームページ、会社の健康保険組合の場合は各ホームページをご覧ください。健康保険証に記載してあります。

このあたりに関しては、拙著「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」の97ページや256ページにも記載していますので、お持ちの方は合わせてご覧ください。

【がん患者版】傷病手当金のケーススタディ

傷病手当金は基本的に「同一傷病につき支給開始から通算1年6か月」という条件がありますが、がんの場合、再発・転移が初発のがんと同一傷病なのかどうかという考え方で判断します。

これまでのご相談で印象に残っている傷病手当金のケース※に基づき、ご説明します。

※個人情報変更しています

あくまでも参考の一つとして活用してください。自己判断は現金です。加入されている健康保険組合にご確認ください。

1.違う病名でも傷病手当金が支給されないケース

違う病名であっても、通算で1年6ヶ月分終了している場合は審査に通らないこともあります。

  • 大腸がんの手術(一時的な人工肛門造設)の際に一定期間傷病手当金を受給し、その数か月後に胆管炎にて再入院
    ⇒大腸がんの腹膜播種(転移の一種)が原因の胆管炎と判断される場合には同一傷病とみなされることも
  • 大腸がんや胃がんの方の腸閉塞
    ⇒術後合併症のため
  • 血液がんの方が免疫低下の期間に発病した炎症症状

あくまでケースバイケースです。

期間や症状の程度によりますし、主治医の医学的判断保険者(協会けんぽや健康保険組合)による判断になりますので必ずしもという訳ではありません。

気になる点があれば、必ず確認してみましょうね。

2.障害年金受給と重なり、併給調整されるケース

傷病手当金受給中に障害年金の審査が通ることがあります。

特に、通算化になった後は障害年金の認定日(最初に診察した日から1年6ヶ月の日)の時点で傷病手当金が残っている方も増えました。

しかし傷病手当金を受ける期間が残っていた場合でも、同じ病気やケガで障害厚生年金を受けることになったときは、傷病手当金は支給されません

ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けられるときはその合計額)の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

また、厚生年金保険法による障害手当金が受けられる場合は、傷病手当金の額の合計額が、障害手当金の額に達する日まで傷病手当金は支給されません。

3.2回目も受給できたケース(社会的な治癒とみなされる)

  • 乳がんにて手術、放射線、抗がん剤を行う際に休職し傷病手当金を受給。10年後に乳がんが再発し、抗がん剤の治療が始まる際に再度傷病手当金の申請を行い、支給決定された
    ⇒再発・転移でも一度社会復帰して同一傷病ではないと健康保険組合が判断されたケースです。

この期間は健康保険によって異なりますので、加入されている健康保険組合に確認しましょう。

「社会的治癒」とは?

疾患自体が治癒したかどうかではなく、社会的に復帰(復職)した日数や期間が社会的に治癒したとみなされた場合、再発や転移で同じ病名であったとしても傷病手当金が支給されることがあります。

健康保険組合次第なので、申請してみないことにはわかりません。ちなみに傷病手当金の審査の結果には社会的治癒という文言などは書かれませんので、あくまでも「このケースは社会的に治癒とみなされたのかな」と読み取ることが多いです。

ちなみにこういったケースは社会的治癒が認められませんでした。

・血液がんにて1年6か月間傷病手当金を受給しながら休職。復職後6か月目で再発し再度休職

通算化になってからは、社会的治癒が認められるのか、それとも通算化による残日数になるのかは各健康保険組合の判断によることが多いです。申請時に希望などは出せません。

障害年金にも社会的治癒がありますが、考え方は違いますのでご注意ください。

4.退職後受給できなかったケース

派遣社員のFさんは派遣開始後4ヶ月目で血液がんの治療のため休職しました。
契約期間の6ヶ月目までは傷病手当金が受給できましたが、契約が終了した退職後の傷病手当金は支給されませんでした。

⇒健康保険に加入していた期間によって、退職後の受給が変わってくるためです。

在職中は休職期間受給できたとしても、退職後はまた条件が変わります。

退職日までに被保険者期間(健康保険に加入している期間のこと)が継続して1年以上あれば退職後も支給されます。

つまり、同じ職場でなくても健康保険の加入が1年以上あるかどうかですので、前職場の健康保険から通算できるかどうか確認されてみると良いでしょう。
(日にちがあいていない、国民健康保険は対象外など条件があるので注意)

また、退職後に支給されないケースとして、「退職日に勤務し給料が発生した」もあります。

退職日以外に引継ぎや挨拶などを行うなど、注意しておきたい点です。

傷病手当金がダメなら他の制度というのは間違い

傷病手当金が不支給となった場合、他に使える制度をと探し雇用保険の失業給付を申請される方を何名もみてきました。しかしこれは今問題になっています。

そもそも、傷病手当金は「働くことが困難なので申請」する制度で、雇用保険の失業給付は「働く意欲があり、再就職活動するための支援制度」なので、根本的に違います。

一人の医師が前日までは就業不能(傷病手当金)、次の日からは就業可能(失業手当)という診断書を記載することは、体調が突然良くなるなど理由がない限り難しいのです。

あなたやご家族にとっては大切な収入源です。
しかしさかのぼって調査が入ってからでは遅いので、制度を選択するときにはどのような目的で申請したいのかを大切にしていきたいところですね。

傷病手当金は複雑、疑問があれば確認しながらの申請を

傷病手当金といっても、利用する状況によって使い方や注意点は様々です。

冒頭に記載した傷病手当金の概要(申請方法など)は病院の医療ソーシャルワーカーや健康保険の担当者(健康保険証記載の連絡先)に確認しましょう。

しかし、後半に記載したケースバイケースの内容や、いつ傷病手当金を申請したらよいか、他の制度との関連性などに関しては、社会保険の専門家である、社会保険労務士に確認することをお勧めします。

病院に入っている社会保険労務士だとがん患者さんのケースにも慣れている方が多いです。

ただ、注意していただきたいのが、傷病手当金は受給できる事がゴールではないということです。

傷病手当金の申請を考えているあなたに必要なこと

傷病手当金をお考えのあなたにとって重要なポイントはこの3つです。

✅「傷病手当金が該当する可能性はあるのか」(主治医と健康保険組合の判断によります)
✅「傷病手当金の範囲内で生活していく方法」
✅「傷病手当金が利用できない場合はどうしたら良いのか」

大事なのは受給後の生活設計と受給までのやりくりです。

「給料の時に比べ減少した傷病手当金の金額で、どうやって家計をやりくりしていけば良いか」

「受給できるまでの数ヶ月間、生活していけるのか」

これが傷病手当金の支給決定された皆さんに多い悩みです。

傷病手当金は給料の約2/3と言われていますが、そこから健康保険料と年金保険料を支払いますので、手取り額は異なります。

がん患者が傷病手当金受給中に注意すること」にも試算方法を記載しましたので、あなたの手取り額を確認してみましょう。給与明細と電卓があればすぐにできます。税金面で注意しておくことも確認できます。

算出できた金額で、今現在かかっている生活費と治療費が支払っていけるのかを確認しておくと、安心して治療ができますよ。

傷病手当金が該当しない場合はどうしたら良いか

今回、傷病手当金の要件や該当するケース、しないケースを解説しました。

「今回は傷病手当金、難しそうだな」と思っても、本当に利用できないのかを、主治医(病状的な部分)、健康保険担当者(健康保険証記載の連絡先)に確認してみましょう。

ただ、今回傷病手当金が該当しないということは、収入源が途絶えてしまう可能性もあります。

「治療は続けたいけれど、治療費が出せそうにない。」
「これから治療費もかかる、月末にはローンの支払いが迫っている。どうしていったら良い?」

このような心配がある場合は、他に何か収入源となるものを探すことも大切です。
そして、収入の範囲で生活していくためにも、今後の支払い関係に関しても考えていくと良いでしょう。

私、黒田は10年間の看護師の経験から痛感した「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」に対し、FPのお金の知識を活用して、一人でも多くの方に安心した治療生活を送っていただきたい、そんな思いで日々取り組んでいます。

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筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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