がんで退職、傷病手当金?それとも傷病手当?
がん患者さんのお金の専門家、看護師FP®の黒田です。
がん治療中に退職する際、相談者からの質問で多いのが雇用保険についてです。
失業給付はどうしたら良いのか、傷病手当金との兼ね合いなどごちゃごちゃしていますので、よくある質問とともに注意点をまとめました。
人によりどういった治療の状況で退職されたのか、今後の再就職の考え方、体調など様々ですので、「自分はこれで合っているのか」を、必ずハローワークや社会保険労務士など就労に関しての専門家に確認されることをお勧めします。
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雇用保険についておさらい
雇用保険の概要
雇用保険は政府が管掌する強制保険制度です。
今回は失業給付についての内容ですが、給付には主に「失業等給付」「育児休業給付」の2つがあります。
失業等給付の種類
- 基本手当(いわゆる失業給付)
- 傷病手当(健康保険の傷病手当金とは全く違うものです)
- 就職促進給付(再就職手当など)
- 教育訓練給付(教育訓練受講に支払った費用の一部を支給など)
- 雇用継続給付(高年齢雇用継続給付や介護休業給付など)
がん患者さんのご相談でよく出てくるのは、退職後の失業給付で、患者さんのご家族からの相談で多いのは患者さんが在宅療養中に利用できる介護休業給付ですね。
がん治療中に退職した場合の失業給付の要件
1.ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
→皆さん判断に迷われるところなのですが、今現在、ハローワークに通える体調か、働ける体調かという視点で考えると良いですね。
フルで働くのがきつくて退職された方が、時間や業務量を減らした求人を探すということもあります。また、主治医から休職などの意見が出ているのかも体調と共に確認しながら要件に当てはめて考えている患者さんは多いです。
2.離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること。
ただし、特定受給資格者(倒産・解雇)又は特定理由離職者(病気など正当な理由のある自己都合退職)については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可。
→特定理由離職者(正当な理由のある自己都合退職)は、待期期間が無く支給日数も変わります。今の仕事は配置換えなど難しく、終了継続が不可能で退職したけれど、他の働き方であれば就労可能な場合という方です。
【注意】どの離職理由になるかは、離職票の離職理由などを基にハローワークが判断します
支給額
雇用保険で受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。
この「基本手当日額」は原則として離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(賞与等は除く)の合計を180で割って算出した金額(賃金日額)のおよそ50~80%です。上限額も年齢別に決まっています。
待期期間や受給期間、もっと詳しく知りたい方はハローワークインターネットサービス、もしくは居住地を管轄するハローワーク(厚生労働省の全国ハローワークの所在案内で検索可能)
では、ここからは相談者からよく聞かれる雇用保険について、お答えしていきます。
Q1 傷病手当金と失業給付は同時に受給できる?
「がん治療中に傷病手当金が支給されないケースと2回目も支給されたケース」にも記載の通り、退職後も要件を満たせば健康保険の傷病手当金は受給可能です。しかし、雇用保険の失業給付と同時には受け取ることができません。
雇用保険の失業給付→労働の意思・能力を有する
健康保険の傷病手当金→労務不能を支給要件とする
「働ける」「働けない」で相反するためです。
働けない状況での雇用保険の受給に関しては、不正受給の例(ハローワークインターネットサービスより)としても記載されていることからも、注意していく必要があります。
Q2 すぐに再就職活動が行えない時はどうすれば良い?
ハローワークで受給延長の手続きをしましょう。
注意)日数が増えるわけではありません。雇用保険を受給する権利を取っておくための手続きです。
雇用保険の受給期間は、原則として、離職した日の翌日から1年間(所定給付日数330日の方は1年と30日、360日の方は1年と60日)ですが、その間に病気、けが、妊娠、出産、育児等の理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことのできなくなった日数だけ、受給期間を延長することができます。ただし、延長できる期間は最長で3年間となっています。
なお、所定給付日数330日及び360日の方の延長できる期間は、それぞれ最大限3年-30日及び3年-60日となります。
この措置を受けようとする場合には、上記の理由により引き続き30日以上職業に就くことができなくなった日の翌日以降、早期に申請していただくことが原則ですが、延長後の受給期間の最後の日までの間であれば、申請は可能です。住所又は居所を管轄するハローワークに申請してください。(代理人又は郵送でも結構です。)
Q3 雇用保険の傷病手当は使えるの?
傷病手当とは、受給資格者が離職後に公共職業安定所に来所し、求職の申込みをした後に15日以上引き続いて疾病又は負傷のために職業に就くことができない場合に、その疾病又は負傷のために基本給付の支給を受けることができない日の生活の安定を図るために支給されるものです。
注意)健康保険の傷病手当「金」とは別物です。
(14日以内の疾病又は負傷の場合には基本手当が支給されます。)
傷病手当の日額は基本手当の日額と同額です。
30日以上引き続いて疾病又は負傷のために職業に就くことができないとき
受給資格者の申出によって、基本手当の受給期間を最大4年間まで延長できます。
受給期間を延長した後、その延長理由と同様の疾病又は負傷を理由として傷病手当の支給を申請したときの支給日数は、その受給期間の延長がないものとした場合における支給できる日数が限度となります。
※ 疾病又は負傷について他の法令により行われる類似の給付を受ける日については支給されません
求職の申込みをする前に疾病状態にあるので、傷病手当の対象になりません。傷病により30日以上職業に就くことが出来ないときは、Q2のハローワークで受給期間延長の手続きをします(雇保法20条)。
可能性はゼロではないけれど…
退職後に働き方を変えれば再就職が可能であったり、受給延長後に体調が戻り再就職活動が可能となり、雇用保険の失業手当を受給中に体調が悪くなったりした場合には、もしかしたら雇用保険の傷病手当が利用できる可能性も無きにしも非ずといった感じです。
その時の状況に応じてハローワークの判断に委ねることになるでしょう。
調べた内容を自分の情報に照らし合わせて人に確認しましょう
健康保険も雇用保険も、要件に照らし合わせて該当すれば利用できるものです。
人それぞれ、治療内容や仕事の状況、社会保険制度の内容は違います。
一番大事なのは、自分の情報に照らし合わせた上で該当するのかどうかを「人」に確認することです。
今回お伝えした内容は、ハローワークインターネットサービス、加入の健康保険のホームページから確認することが可能です。その情報を以下の「人」に必ず確認し、選択すると良いでしょう。
ちなみにハローワークや健康保険組合はそれぞれの管轄の内容には詳細に教えてくれますが、制度と制度の比較検討などは難しいですので、専門家である社会保険労務士や患者支援を行っているFPに確認することをお勧めします。
- 病院の相談支援センター
- 居住地を管轄するハローワーク(厚生労働省の全国ハローワークの所在案内で検索可能)
- 健康保険組合や自治体など保険者(健康保険証に記載の名称)
- 社会保険労務士
- 患者支援を行っているFP
制度というのは支給決定後は「やっぱり他の制度に変更」というような後戻りはできない場合があります。
治療や生活を支える大事な制度の選択ですが、説明文は複雑で捉え方を間違えると利用できないこともありますので、必ず人に確認し、最善の方法を選択できると良いですね。
私、黒田は10年間の看護師経験を持ちながら、「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」が多くの患者さんにとって大きな負担であることを痛感してきました。FPのお金の知識を活用し、一人でも多くの方に安心した生活を提供したいという思いで、日々活動しています。
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筆者プロフィール
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10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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