主治医に治療費や生活費を相談しても逆効果な理由と対処法

がん治療で長期的な治療費や収入減でお金に困ったとき、収入源を確保するための手続きはこのようなものがあります。

・【公的制度】傷病手当金や障害年金

・【民間】医療保険・がん保険・生命保険・住宅ローンの団体信用生命保険、最近だと就業不能保険、所得補償保険なども

そこで必要になってくるのが医師の診断書や記載書類。

治療中の方やご家族が主治医に記載の依頼をしても、「そういう状況ではないので、書けない」と言われることがあります。

例えば、「がんでは障害年金は無理だから、書けない」

というのは、いまだによく聞かれます。

がんという疾患はなかなか見通しがつきにくいことや、患者さん自身が抱えているつらさが表面的にわかりにくいこともあるため、特に多いのではないでしょうか。

私もがん患者さんのお金の専門家としてご相談を受けていて、本当に良く聞きます。

しかし、「患者さんと先生ですれ違っているだけで、伝え方を変えれば伝わるんじゃないか」と感じることも多々あります。

患者さんの思いと医師の考え方、ここを整理していくことで解決できるケースもありますので、もし同じような状況で悩んでいましたら、この相談者のケースを参考にしてみてくださいね。

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相談者プロフィール

毎月1回Zoomで面談をしています。

山梨県在住、40代後半、女性。夫と子ども(成人)の3人暮らし。

2019年7月 乳がんと診断、3週に1回抗がん剤投与続けてきた。3ヶ月前に骨の転移がわかる。腰痛あり。

点滴の抗がん剤治療中の副作用や体力低下により、退職。退職後も傷病手当金を継続し受給してきた。9万円/月は治療費(高額療養費の付加給付により25,000円)と社会保険料(健康保険料・国民年金保険料)、住宅ローンの返済などもあるため家計の足しにしてきた。

診察中のすれ違いの会話

リンパ節の転移が小さくなり経口薬に変更となるタイミングで、今後の傷病手当金の話になる。

主治医:「経口薬は副作用も少ないし、働いても良いですよ。」

相談者:「傷病手当金が無くなったら生活していけません。継続は無理ですか?」

主治医は困った表情で話は進まず、診察終了となる。

患者さんが気持ちを訴えても、医師は応えられることとできないことがある

医師からの説明

主治医が治療方針の変更による副作用の見通しから就労可能を告げたことに対し、相談者はお金の困りごとを伝えていますね。

患者さんの気持ちとしては大変よくわかります。しかし医師にお金の事情を伝えたところで就労可能か不可能かの判断を左右させることは難しいです。

医師は病状や治療の影響を基に医学的判断をせねばならず、ここにお金の事情は含まれないからです。

なので、相談者からお金の事情を話されても、医師としては困ってしまうのですね。

ただ、制度の申請など関係なく、今抱えているつらさの一環として「身体のこと」「こころのこと」「仕事のこと」「家族とのこと」とともに生活面の悩みとしてお金のことを伝える分には良いことだと思っています。

患者さん、主治医ともにどうしようもできない思いを抱えるよりは、これからお伝えする方法を実践してみることをお勧めします。

医師への伝え方を整理する

相談日に診察の際のできごとをお聞きし、「主治医と相談者ですれ違っている」と判断した私は、まず相談者の身体と心の状況を整理していきました。

①身体のつらさ

「腰痛があり、立ちっぱなしが難しい」

「背骨にヒビが入っているため、怖くて動きづらい」

「だるさがある」

②考えられる原因

骨への転移、抗がん剤治療による体力低下など、なぜなのかを自分のなかで振り返ることも大切ですね。

がんの病状からくるつらさや、治療の副作用でしびれや爪の周りの炎症がある、後遺症、リンパ浮腫などもあります。

③生活や仕事へどう影響するのか

・台所での家事が今までよりも短い時間でないとできなくなった

・電車での移動で長時間立てなくなった(ラッシュでの移動は難しい)

・コールセンターの仕事を紹介してもらったが、通勤がむずかしい

・経口の薬に変更したとしても、骨への転移に対する不安が大きく、がんをきっかけにうつも発症し、仕事ができる心境ではない

④相談者の希望

「今は仕事よりも治療に専念したい。」

「お金の不安なく、仕事を休みたい。」

「今よりも身体のつらさが楽になり、精神的にも少し落ち着いたら、精神福祉手帳の障害者雇用枠での仕事を検討しようと思っている。」

ここまでの情報をつなげるとこうなります。

状況の整理

骨に転移

➡背骨にヒビ

➡腰痛

➡長時間台所立っているとつらいほど、働くのがつらい、通勤でラッシュ立つのは厳しい

➡経口薬になっても変わらない(かもしれない)事実

主治医との間では経口薬の視点でのみ話されていたのですが、よくよくお話を伺うと、実は相談者の今のつらさは腰の痛みだということがわかりました。

無理をすれば大丈夫だから医師には伝えなかったけれど、傷病手当金以上の金額分働くのは厳しいと相談者の中で不安が募っていたため、あのようなお金の伝え方になってしまったそうです。

痛みだけでなく、抗がん剤などの副作用に言えることなのですが、今のつらさが自身の生活・仕事に照らし合わせたときに、どのように影響を及ぼしているのか(③)が特に重要です。どこまでできてどこからが難しいのかですね。

そして仕事に関しては「通勤」も重要です。今回の相談者のように軽作業自体は行えたとしても、仕事場まで行くことが難しいようなら「働ける」とは言い難いためです。

相談者には、今の痛みの状況(いつ、どのくらい、どのようなつらさ)を詳しく伝えられるよう準備することと、痛みによって何がつらいのかを①③④を順番に伝えられると、今後も働くことが難しいという状況が主治医に伝わりやすくなるのではないかとお話しました。

(②は恐らく伝えなくてもわかることなので省略します)

主治医にはお金の悩みというよりは、「今は身体がつらくて働くことが難しい」ことを正確に知ってもらうことが重要です。

主治医が就労可能か不可能かを医学的に判断します。

そしてその結果により就労不能の際の生活保障としての傷病手当金の申請が見えてくることなので、制度の申請に関しては主治医が医師として判断しなければならない判断材料の①③④のみがきちんと整理されて伝われば良いのです。

つらさは伝わりづらい、だからこそ早めに相談

大事なこと

医師に診断書や書類を記載してもらうのは公的な制度だけではなく、民間の生命保険や住宅ローンの団体信用生命保険も同様です。

人のつらさというのは、伝わりづらいものです。

特にがんの病状やがん治療の影響によるつらさは見た目にはわかりにくいことも多く、言葉で伝えられないと制度やサービスなどを受けられにくい状況にあります。

伝えるためには状況を整理することが不可欠なのですが、これもまた大変な作業です。

がん患者さんやご家族は何もかもはじめてのケースが多いので、どのように整理していったら良いのかが難しいですよね。

そういった場合には、病院のがん相談支援センターで相談してみましょう。

相談専門の医療ソーシャルワーカーや看護師がお話を伺って整理するのを手伝ってくれます。

そして、診察の際に医師に伝えやすいようサポートもしてくれる病院もあります。

民間の生命保険関連は審査のスピードは速い(1週間ほどのところも)ですが、公的な制度に関しては、必要書類を提出(申請)してから審査に数ヶ月要するケースもあります。

大切な収入源の手続きですので、スムーズに行えるよう、抱え込まずに相談していくことが大切ですね。

もちろん私の方でもこういった内容はサポートしていますので、気になる方は下記LINEよりご連絡いただければと思います。

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筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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