がん治療中の従業員が焦って早期復職する理由と企業が行える対策とは

がん治療中の治療費の支払いや住宅ローンや教育費といったお金の専門サポートのご依頼は毎月全国から寄せられています。

ほとんどが仕事をしている30~50歳代の方です。

休職のタイミングや期間は、治療スケジュールをもとに有給休暇や傷病手当金といった制度の利用ができるかどうかによっても変わってきます。

今回は、制度も利用できる環境であったのにも関わらず早期復職されたケースをご紹介します。

なぜ早期復職に至ったのか、そして企業として行えることはないかを、がん患者さんのお金の専門家 看護師FPの黒田が解説します。

がん治療における、一般的な復職への流れ

今までの相談で見てきた、一般的な復職※への流れはこのような感じです。

がん治療中の復職の決め手は体力が回復しているかどうか、復職後に業務がこなせるのかが大きいです。

従業員である患者さんと主治医がここを話し合い、業務上配慮してもらえたら好ましい点などを記載した診断書を職場の人事担当者や産業医、いない場合は上司や責任者、経営者に渡します。

その後、従業員と職場で面談を行いながら復職のタイミングや復職の方法を決めていくというのが一般的な流れです。

必要に応じて配置転換や時間短縮、時差出勤などで少しずつ慣らしながら今までの業務内容に戻していくケースもありました。

手術、放射線療法、抗がん剤治療、どれか一つでも体力が落ちてしまう方が多いのが現状です。

職場が理解あるところで待っていてくれる場合、大体は体力が回復し自信がついてきたら復職の段取りを勧めていくケースが多いのですが、中にはすぐに復職を望まれる従業員の方もいました。

※復職については、国立がん研究センターがん情報サービス「診断から復職まで」もご参考にしてください。

体力の回復状況と業務内容の判断が行えていなかった例

食道がんのK.Mさんは放射線と抗がん剤を同時におこなう入院治療の退院した次の週から復職しました。

実際に復職後巡回をする業務中に座り込んでしまい、思ったより体力が回復していないことに気づき、再度休職しました。

K.Mさんの場合は体力が思っていた以上に回復していなかったことと、ご自身の業務内容(かなり動く巡回業務)が照らし合わせられていなかったがために起きたことです。

こういったケースはまじめな方に多く、休んでいると職場の方に迷惑をかけてしまうからという気持ちの方が大きく動いてしまうことは多々あります。

もちろん、医療スタッフも就労支援に携わるスタッフも説明はしていましたが、最終的に周りへの迷惑や帰れる場所を求めてご本人が早期復職を選択されました。

もう一つのケースは体力が戻っていないことを自覚していても、復職せざるを得なかったR.Oさんです。

職場は休んでもOK、しかしお金のために復職せざるを得なかった例

大腸がんの手術後、2週間に1度の抗がん剤治療を行っていますが、副作用の下痢と体力低下がありました。

R.Oさんは傷病手当金を受給しながら4ヶ月間休職していました。職場からも2日間の点滴中は運転もさせられないし、体力が完全に戻っていないのならば1年間は休んでも大丈夫と言われていました。

ところがR.Oさんは内勤ならばトイレにもすぐに行けるし復職できると職場に伝え、復職することになりました。

復職はしてみたものの、片道1時間半の通勤電車は体調的につらく、R.Oさんは職場と相談し、復職後にまた再休職するという選択をとりました。

R.Oさんに事情を伺うと、「傷病手当金ではやっていけなかった。住宅ローンと子どもの大学費用がかかるし、復帰すればと思っていた。けど内勤で手当てつかないので傷病手当金とほとんど変わらなかった。つらいのにお金が変わらないのであれば休みたいと思ったんです。」とのことでした。

復職するかどうかの時点で、傷病手当金と復職後の収入のおおよその試算が行えていれば、もしかしたら焦って復職せずに他の方法があったのかもしれないと、サポートに関わるタイミングの重要性にも気づかされたケースです。

従業員が焦った復職をしないために企業が行えること

2つのケースをご紹介しましたが、職場の理解が得られているのであれば、体調面は焦らず慎重に復職のタイミングを検討された方が従業員・職場ともに長く安心して勤めていけるのではないかと感じています。

金額面が焦りの理由の一つであるならば、収入に合わせた支出に調整していくことも一つの方法です。

今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、在宅勤務が難しい従業員の方の焦りを実感しています。

企業としては、実際にがんになられた従業員に対しては復職の理由として金銭面のことまで掘り下げて確認することは難しいでしょう。

ですので産業医を通し体調面の方で業務内容を現実的にこなせるのか、そして通勤は可能なのかを従業員と一緒に考えていくことをお勧めしています。

そして、今後そのような従業員を増やさないためにも、従業員が生活やお金の面でも安心して休める備え方をレクチャーしていくことも求められていくのではないのでしょうか。

備え方はがん保険だけではありません。

従業員の生活や家族構成に合わせた方法があります。

筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)