白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の方のお金の悩み
今までも悪性リンパ腫の抗がん剤での看護や、FPとして家計相談に対応してきましたが、今年から血液がん患者(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)の相談事業への参加や、移植に関連するお金の執筆をしていると、治療期間や復職までの期間など、やっぱり固形がんの方とは違う難しさがあるなと改めて感じます。
がん患者さんのお金の専門家、看護師FP®の黒田がこれまでの経験を基に血液がんの方が抱える悩みやその解決方法について解説します。
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血液がんとは
血液のがんは、血液細胞が「がん化」して起こる病気で、代表的なものに白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫があります。
がん化する血液細胞の種類や成熟度によって発症する部位や進行度などが異なり、治療法も異なります。症状も発熱やだるさといった全身に出るものもあれば、特定の部位の腫れや痛み、めまいなど様々です。
血液がんの方が置かれている現状
①治療期間が長い
進行が早いタイプの血液がんの場合は、見つかった段階で検査から治療を早期に始めなくてはならないケースも多く、病状や治療の影響で免疫機能が低下することも多いため、入院期間が長期となることも珍しくありません。
退院後も免疫機能が回復するまでに時間を要し、自宅療養期間が長く、復職や今までの日常生活に戻るのに時間がかかることも。
接客業や運送業、建築業やエッセンシャルワーカーなど、現場に出ることが復職としての条件の場合は復職へのハードルが高い傾向にあります。
通勤での混雑が復職を困難としているケースも少なくありません。
復職までの期間が長いということは、収入が戻るのに時間がかかるということです。
②寛解後も長期的な合併症が続くことも
治療法の一つに造血幹細胞移植がありますが、移植後は、さまざまな副作用や合併症が起こります。
例えば移植片対宿主病(GVHD)は、同種移植後に特有の合併症で、ドナー由来のリンパ球が患者さんの正常臓器を異物とみなして攻撃することによって起こります。(がん情報サービス 移植の際の副作用・合併症)
GVHDは様々な症状があり、急性では皮膚・肝臓・消化管など、慢性では皮膚・口腔粘膜・眼球・肺などです。症状や程度は個人差がありさまざまです。
ご相談の中には口の中がずっと乾いていてペットボトルが手放せない方や、目の角膜に症状が出た方もいらっしゃいました。
また、血液がんは小児がんの約40%を占めています。
成⻑や時間の経過に伴って、がんそのものや、薬物療法、放射線治療など治療の影響によって「晩期合併症(晩期障害)」が起こることがあります。
晩期合併症に適切に対処するためには、定期的な診察と検査による⻑期間のフォローアップが必要となることもあります。
血液がんの方がお金の不安なく生活を送るために
血液がんは抗がん剤や分子標的薬の治療が多かったり、入院期間が長くなるなど治療費が高額化しやすい面があります。
そういった中で働くことが難しく収入減となると、生活や治療継続への不安を抱えることも少なくありません。
ですので、①治療方針や体調に合わせた、適切な制度の活用と、②復職計画、③治療開始~復職(収入復活)までのお金の見通しをつけていくと安心して治療生活を送ることができます。
大事なのは、状況に合わせて柔軟に対応していくことです。
移植予定で抗がん剤治療期間中の時には、移植を行うのかどうかによってその後の治療期間や体調も変わってきます。
ですので、相談の場では移植を行う場合と行わない場合の両方を想定して制度設計やお金の見通しを説明することもあります。
両方を考えることは大変と思われがちですが、どちらの方向性になったとしても対応策があるというのは心の安心として大きいです。
①制度の適切な活用
血液がんの方の制度のポイントをお伝えしますね。
1.高額療養費制度
高額療養費制度、限度額適用認定証に関してはご存じの方も多いかと思いますが、入院と外来診察が同じ月になった場合には、加入している健康保険によっては世帯合算の手続きが必要なこともあります。(世帯合算についてはこちらより)
2.傷病手当金
休業補償として会社員や公務員の方が利用できる、健康保険の制度です。傷病手当金は要件を満たした場合、おおむね給与の2/3が最長1年6カ月間受給できます。今年から通算化となり、使った分だけカウントされるようになりました。
血液がんの治療では治療期間が長期にわたることが多いので、生活保障として利用できる傷病手当金の日数カウントは要チェックです。
3.障害年金
初診日に国民年金なのか厚生年金なのかによって、等級も変わってきます。しかし血液がんの方も申請されている方もいますので、その経験を基にお伝えします。
経過が長くて初診日がはっきりしない、記録をたどるのが難しいといった悩みや、合併症などで症状が複数あって申請手続きが大変だという悩みがあります。
その場合には年金事務所や街角の年金センターで予約して確認されると良いでしょう。
また、障害年金は病名ではなく、「生活や仕事に支障を来している」といった状況で審査されます。
仕事に関しては、通勤が難しい場合も支障を来している内容に入る可能性もありますが、主治医と認識を合わせることが難しいと言った声も聞かれます。
こういった、なかなかご自身での申請準備が難しい場合には、社会保険労務士に代行を依頼するのも一つの手です。(社会保険労務士に依頼するメリットについて)
②復職計画を立てる
病院のがん相談支援センターでは、復職の相談にも対応しており、社会保険労務士が定期的に訪問し、法的な面からの具体的な相談にも対応している病院も増えています。
また、国の事業として、移植後の地域連携、患者相談及び就労支援を強化する取り組みも令和元年度より始まっています。
いつ、どのように職場とコンタクトを取っていけば良いのかといった相談から、このように職場から条件を出されたけれどどのように対応していけば良いのかといった具体的な相談にも対応していますので、かかりつけの病院の相談支援センターを利用してみましょう。
③治療開始~復職(収入復活)までのお金の見通し
制度の利用や復職の見通しが立っても、お金の悩みは解決していません。
制度で受け取れる金額の範囲内でどのように生活設計を立てていけるのかが見えないと、お金の不安が無くなることはないからです。
傷病手当金も障害年金も、フルで働いていた時の給料収入に比べると減る方がほとんどです。
収入がどの位減っているのかによって、このようなことが変わってきます。
- 国民健康保険料の減免
- 国民年金免除
- 各種税金の猶予(減らしながら払い続ける)
- 大学や専門学校の給付型奨学金と授業料免除
- 銀行への住宅ローンの払い方への相談方法
病気になると食費や水道光熱費を節約して治療費にまわそうとか、家族がもっと働いて収入を増やせば良いといった考えの方も中にはいますが、患者さんだけではなくて、ご家族全員が無理をしてしまうため、現実的に長期は難しいです。
今までの相談者の経験より、治療開始から1~1.5年位を復職(収入復活)の目安として、まずはその期間の世帯での収入の見通しに合わせた支出の見直しを行うケースが多いです。
家族構成や資産、収入によって、できることと難しいことがありますので、各家庭に合わせた支出の見直しが大事です。
血液がんは、寛解してからも長期に渡る合併症などで生活や仕事に影響を及ぼしている方もいますし、検査代も継続的にかかるので、数年にわたって家計相談を行っている方もいます。
高額な治療費ももちろんですが、収入の維持や長期的な生活設計という点でFPが関わる必要性を強く感じます。
筆者プロフィール
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10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)
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