がん患者が退職後の傷病手当金トラブルを回避するコツ

がん患者さんが傷病手当金を利用するためには、傷病手当金という制度を「知っている」「申請できる」「審査が通る」ことが必要です。

傷病手当金をはじめ、制度やサービスを利用するためには、患者さん自身かご家族が知りたい情報のために動かざるを得ない現状があります。
時間も労力も必要です。

すんなりと申請できることに越したことはないのですが、各窓口担当者にうまく伝わらず、結果制度を利用できないことも少なくありません。
今回は、この「なぜ窓口担当者にうまく伝わらないのか」と解決方法について、これまでに受けてきた相談をもとに、がん患者さんのお金の専門家 看護師FP®黒田が解説します。

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なぜ、窓口担当者にうまく伝わらないのか

少し複雑なケースで窓口担当者へ確認するも、うまく伝わらない。

結果、申請にたどり着けない患者さんを多く見てきました。

窓口担当者の「そういったケースは難しいですよ」という返答は、希望を失いますよね。
しかし、状況的にそう言わざるを得ない状況もあるのです。
がん患者さんの相談を受けていると、とくにがんという疾患では多いのではないかと感じます。

なぜでしょうか。

がんという疾患は「症状が固定しづらく、見通しがつきにくい点があるため」が理由として考えられます。
脳梗塞で麻痺が生じている、骨折をしたといった状況であれば、ある程度身体の状況も想像しやすいのですが、がんの場合は、

・どの部位で進行度、タイプは
・どのような治療を行うのか
・治療期間
・働き方にはどのような影響があるのか(休まざるを得ない状況なのか)

これらが想像しにくい疾患なのです。
病状×治療の影響×仕事の状況
これらを総合的に判断するのは容易ではありません。

とくに傷病手当金は患者さんごとに立場や状況が違うので、きちんと情報を聞いてからでないと正しい情報を伝えられないという担当者側の理由もあると考えられます。

きちんと情報を伝えるにはどうしたらよいのでしょうか。

必要な情報を引き出すためには、切り取らないことが大切

ここは難しいのですが、大切なところです。

傷病手当金を例に挙げますと、
①欠勤している事実(職場の証明)
②医師の就業不能の証明
③健康保険組合ごとに違う要件に該当している
が必要です。

例えば、休職中で傷病手当金を受給していたとしても、退職後にも継続で受給するためには以下のような内容を確認していかなくてはいけません。

・一年以上健康保険加入という要件を満たしているのか(職場が変わっている場合には加入状況が該当しているのか)
・国民健康保険保険に切り替わったとしても利用できるのか(任意継続被保険者でないと利用できないところもあるため)
・今の職場にはどのような証明を出してもらわないといけないのか

患者さんの多くは②があれば受給継続が可能だと考えていますが、実は加入されている健康保険組合の要件が満たされていないと審査に通ることは難しいのです。健康保険組合によって要件が異なる場合もあります。

ですので、まずは③で自分にとって必要な情報を確認しておいて、それをもとに医師や職場へ①②を準備してもらえるよう、働きかけていかなくてはいけません。

こういった理由があり、健康保険組合に確認する際には、かなりさかのぼって確認しなくてはならないこともあり、「今だけを切り取って確認するのでは不十分」となるのです。
さかのぼるだけでなく、今後の予定もです。

傷病手当金に関わらず、制度を利用するために必要なことは、

引き出したい答えを得るための質問

これを窓口担当者に伝えることです。

しかし、どのように聞いたら良いかわからないですよね。
それ自体は恥ずかしいことでもないし、当たり前のことなのです。
だって、傷病手当金の手続きやがんになってからの制度を利用すること自体はじめての方がほとんどですから。

大切なのは、一人で抱え込まないことです。
質問内容をより早く、的確に知るためには、慣れている相談員や専門家を活用するに限ります。

ゴールは自分で決め、そのための質問を情報収集するのが早道

がん患者さんが制度を申請しようと思ったとき、説明を受けるところはたくさんあります。
自治体窓口・・・国民健康保険(加入、脱退、高額療養費)、介護保険、国民年金、税金関係、福祉関係など
健康保険組合・・・傷病手当金、任意継続被保険者など
年金事務所・・・老齢年金・障害年金・遺族年金
街角の年金センター・・・年金事務所と同じ
ハローワーク・・・失業給付や再就職活動、職業訓練など
労働基準監督署・・・不当解雇や給料未払い、労災認定、ハラスメントなど
社会福祉協議会・・・生活福祉資金貸付など

など、もっとありますが、代表的な窓口はこんな感じでしょうか。

こんなにもたくさんの窓口担当者から、自分の知りたい情報の答えを引き出すため、まず頼ってもらいたいのは、かかっている病院のがん相談支援センターにいる医療ソーシャルワーカーです。

「どんな制度が利用できるのか」「どの窓口に連絡すれば良いか」といった総合的な案内をしてもらえる可能性がありますので、積極的に確認することをお勧めします。
もし、かかっている病院にそのような相談部署が無い場合には、地域のがん診療連携拠点病院で相談に乗ってもらえますよ。

そして、病院に社会保険労務士が入っている場合は、予約を取って確認されると良いでしょう。
大体1ヶ月に1回出張で相談を行っていて、無料で相談可能です。
制度や働き方の専門家ですので、あなたに合った情報を教えてくれるはずです。
「働き続けるためには、どう職場と話し合えばよいか」といった相談にものってくれます。

色んなケースに対応している相談員・専門家だからこそ聞けること

大体の患者さんは一つの制度だけでなくて同時に複数の制度の申請が必要です。

そしてがん治療中は「もし長期になったら自分は、家族はどうなるの?」という不安を抱える方は少なくありません。
そんなときに、利用する可能性は少ないとしても、お守り代わりに先々に利用できる制度の情報を知っておくことは、安心につながりますので、今だけでなく、今後のことも知っておきたいですよね。

しかし、各窓口では基本的に担当内容しか教えてくれません。
もっと横断的に各部署が説明にプラスαしていただけると、患者さんが動きやすくなりますが、仕組みとして難しいので、患者さん自身かご家族が動かざるを得ない現状があります。

このあたりの横断的に必要な情報も様々なケースに対応している相談員(医療ソーシャルワーカーや看護師)や専門家(社会保険労務士)に確認していくと良いですよ。

患者力は必要ない、必要なのは一人で抱えないこと

一人一人の患者さんが一つの制度を利用するのは、人生の中でそう多くありません。
巷では「患者力」を高めるといったことが注目されています。
自分事に捉えて前向きに行動することは支持しますが、
制度を利用するための情報収集や窓口とのやり取りに関しては、違います。

能力を高めるための時間や労力を費やすことよりも、周りの資源(ソーシャルワーカーや専門家)を活用していくことが、トラブルを最小限に最短で行えるコツです。

私の方でも一緒に考えていくことができますので、お気軽にお問い合わせください。

筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)