ベージニオ、エンハーツ…長期使用のがん治療薬にまつわる医療費の悩み
今まで多かったがん治療薬の医療費の悩みとしては、「もうお金が尽きそう、医療費や家賃が払えなくなるので治療の継続を考えたい」というものでした。
しかしここ数年は、悩みの声に変化を感じています。
がん患者さんのお金の専門家、看護師FP®の黒田が、患者さんのご相談事例を基に実態をご紹介します。
同じように悩んでいる方には、一人で抱え込まずに病院のがん相談支援センターや私たちのようながん患者さんの支援を専門に取り組んでいるFPに相談するきっかけになれば嬉しいです。
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がん治療費における悩みの最近の変化
「がん治療薬はお金がかかる」という声は多く聞きますが、公的医療保険が適用される標準治療ならば、高額療養費制度により毎月一定額で済むのでそんなに負担がかからないというイメージもあるかと思います。
しかし最近では、最長で2年間使用する薬剤の認可が続出し、対象となる患者さんも拡大傾向です。
私のところにも、「主治医から長期使用できる治療法の説明を受けたけれど、払えるかどうか心配です」という相談がここ1年で増えているという状況です。
今回は相談者の事例を基に悩みの実態をご紹介します。
「私は医療費払っていけるでしょうか?」
T.Kさん(仮名)50代、女性
2008年に乳がんと診断、手術後数年間ホルモン療法
2022年乳がん再発がわかり、摘出手術後TC療法、ホルモン療法、リンパ管静脈吻合術
そしてベージニオを今後の治療法として主治医より勧められて迷っているというご相談依頼でした。
ベージニオとは
ベージニオ(パルボシクリブ)は、がん細胞が増殖するのを制御する経口分子標的薬です。
乳がんの分子標的薬については「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2023年版」も合わせてご覧ください。
ベージニオは毎日飲むことで、がん細胞が増える過程(細胞周期)を止め続けることをコンセプトに開発された、ホルモン受容体陽性乳がんのお薬です。
日本イーライリリー株式会社ホームページ「ベージニオ」より
副作用はだるさや下痢、好中球減少、咳、肝機能低下、関節痛をお聞きすることが多いですが、人それぞれですね。
ベージニオを選択する上で気になる検証試験
2022年12月6日、医学誌『The Lancet Oncology』にてベージニオ+ホルモン療法の有効性、安全性を比較検証した第3相のmonarchE試験(NCT03155997)の中間解析の結果がThe Royal Marsden NHS Foundation TrustのStephen R D Johnston氏らにより公表されました。
結論から申し上げますと、「ベージニオ+ホルモン療法は、4年無浸潤疾患生存率(IDFS)※においても良好な結果を示し、長期にわたって臨床的有用性が確認されました」とのことでした。
※割付日を起算日として、無浸潤性の病変再発と判断された時点、再発以外の癌病変の出現と判断され、またはあらゆる原因による死亡日までの生存率を示します。
しかし注目すべきはホルモン療法のみとの比較です。
4年無浸潤疾患生存率において、ホルモン療法のみ(79.4%)とベージニオ(85.8%)と6.4%の差であることがわかりました。
こういった説明は、治療薬の説明の時にもされることが多く患者さんやご家族にとっての判断材料となり得ます。
そこに、医療費の問題も大きくのしかかります。
ホルモン療法のみでは、人によっては2ヶ月で5,000円ほど(T.Kさん情報)なので、高額療養費までいかないことからも、10年間行った場合約30万円となります。
比べてホルモン療法+ベージニオ療法ではベージニオ150mg 1錠は8,616円です。 1日2錠ですので1日17,232円、1か月30日として月516,960円となります。一般的な収入の方(高額療養費「ウ」の区分)ですと最長2年間服用の期間とホルモン療法のみ8年間(高額療養費までいかない)で約142万円となります。
医療費な関しては、ご自身の負担金額をまずは確認していくことが大事です。
あくまでも薬剤の医療費だけの比較ですので、副作用などの体調の変化により仕事面に影響があり、収入面も変わる可能性がありますし、体調を整える、サポートするための費用もかかるでしょう。
生活スタイルによっても悩みは変わるので、抱え込まないことが大事
乳がんという疾患は女性に多い疾患ですので、家族構成や生活の状況により家事や子育て、介護などの影響もあります。
T.Kさんも、お子さんの高校や大学の教育費が心配とのことでした、
医療費だけの単純な問題ではなく、今後の生活や将来設計なども総合的に考えるべきことが多くなり、治療薬の選択は複雑になってきています。
こういったデータが出てきて、相談者からの生の声を聞いていると、やはり治療方針とお金は切っても切り離せない関係なのだと痛感します。
こういった長期使用の高額ながん治療薬は増えてきています。
抗体薬物複合体という新しいタイプの薬剤エンハーツは、2020年3月、HER2陽性の転移・再発乳がんに対する3次治療薬として承認されました。
2022年11月には2次治療で、さらに今年3月には、従来のHER2陽性のみならず、HER2の発現が少ない(HER2-low)乳がんに対しても、2次治療で使うことができるようになりました。
このように、使用可能な対象患者さんも拡大していっていますので、こういったこれから数年先の治療の選択を迷う方は今後増えるのではないかと思われます。
何とか医療費にまわせるお金を作っていくことや、人それぞれ異なる生活設計を患者支援を専門に行うFPとして一緒に考えていけることで、相談者が現在できる最善の選択をサポートできたらと考えています。
大事なのは、一人で悩みを抱え込まないことです。
活用できそうな公的制度やお金の情報、生活情報は生ものです。
日々同じような悩みに対応している病院の相談員(制度情報)や患者支援が行えるFP(制度・お金情報全般)にまずは確認してみると悩みが大きくなる前に対処できますよ。
私、黒田は10年間の看護師経験を持ちながら、「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」が多くの患者さんにとって大きな負担であることを痛感してきました。FPのお金の知識を活用し、一人でも多くの方に安心した生活を提供したいという思いで、日々活動しています。
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10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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