がん治療に伴う経済毒性の実情と改善・対策方法【日本臨床腫瘍学会にて登壇】
福岡にて開催された、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会のセミナー「日本におけるがん治療に伴う経済毒性の実情と対応策」に登壇しました。
7時台の早朝にも関わらず、なんと100名以上の方が参加いただき、関心の高さを実感しました。
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経済毒性とは何か
日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之先生が司会を務め、最初に愛知県がんセンターの本多和典先生が「日本人がん患者における経済毒性」というテーマで30分お話されました。
がん治療の進歩に伴い、予後が延長されてきたことは大変良いことではありますが、高額な治療薬を長期間行うことも増えてきており、その結果身体の治療関連毒性と同様に経済的な負担も経済毒性(financial toxicity)として考えられています。
経済毒性とは、単に毒性(≒治療の副作用)ではなく、がんと診断されたことに関連する経済的な負担により、患者さんだけでなく家族に及ぼす影響のことと言われています。
経済毒性は単にお金の問題だけではない
QOL(生活の質)や生存期間の悪化(治療成績への悪影響)にも影響を及ぼすことが米国の報告としてあがっています。公的保険のあるイタリアからも同様の報告があるようなのですが、日本ではそのような報告がなく、日本でも存在するのではないかということで、本多先生は米国で開発された評価方法の日本版を翻訳し作成したそうです。
お話の中では評価方法(COST調査)の11項目の質問内容や実際に行ってみての米国などとの比較、結果の評価などを教えてくださいました。
日本でも高額な分子標的薬がたくさん出てきていることや、十分な情報提供により経済毒性が軽減する可能性のデータも教えていただけたので、私たちFPのサポートの意義も改めて感じました。
本多先生は、最後に院外のFPとの連携の重要性や、がんという病気は自然に発生する生物学的な問題だけど、経済毒性は我々が作り出した人工的な問題なので、きっと我々に解決することができると言っていました。これは私の今後の希望だと感じました。
経済毒性への取り組みの実際
次に、私の方から「がん患者さんのお金の実情や改善・対策方法」というテーマで20分間お話しました。
今回の登壇にあたり、患者さんやご家族58名にご協力いただいた医療費や収入減に関するアンケートを紹介しながら、私の相談者のメインである40~50代の働き盛りの方の生の声をまずお伝えしました。
1つ目の事例では、40代の肺がん患者さんで収入を増やしたらよいのかそうしない方が良いのか、ネットで調べても自分に合う答えが分からないという相談をご紹介しました。
あまり頑張りすぎても高額療養費の区分や健康保険料的にどうなのか、でも働かないと生活維持できないという両ばさみに苦しんでいる現状があるので、単に収入を増やせば良いというわけではなく、家族の事情や家計のバランスなど総合的に見ながらその時に考えられる最善の選択を一緒に考えているということをお伝えしました。
2つ目の事例では、40代の大腸がんの方で家計の内容に踏み込みながら、何とかせざるを得ない状況と、保険適用外の高額な医療費がかかるのとは違い、健康保険適応の標準治療ならではの悩みとして、なかなか表に出しにくい、周りに相談しにくい理由をお伝えしました。
傷病手当金でカバーできない部分に苦しんでいる現状や、障害年金の実際についてもお話しました。
医療者が行える2つのポイント
このお話をいただいた時、司会の勝俣範之先生からぜひ医師に障害年金について話して欲しいとお聞きしておりました。
先生は障害年金がどれだけ患者さんやご家族の生活の糧になっているのか、そして医師が記載する診断書の重要性を日々の診療にて感じておられ、医師向けの障害年金の診断書の書き方の啓発にも取り組んでおられます。
障害年金の現状や誤解されている部分と、診療で忙しくても対応できるポイントなどを説明しました。
もう一つ、医療従事者がすぐに行えるポイントとして、患者さんやご家族にお金のことを考えてもらえるような働きかけが大事だということを伝えました。
制度の活用や就労支援は多くの病院で取り組み、がん相談支援センターなどで説明も充実してきてはいますが、今回お話したように、それだけでは経済毒性の軽減にはならないこともあるため、家計への取り組みも一日も早く進めていく必要性があること、ちょっとした声掛けで患者さんやご家族に気づいてもらえてご自身で家計を気にするきっかけ作りがとても大事だということをお伝えしました。
そして、FPでないと行えないこととして、家計の問題が起きた際にやみくもに支出を減らしても望む生活が送れなくなることがあることや、特に住宅ローンはとりあえず銀行に相談ではなく、FPに住宅ローン以外の家計の全体像や望む生活など整理してから住宅ローンの相談先の選定が良いとお伝えしました。
学びや得られたものが多かった学会
質問やご挨拶での意見交換から、医師が抱えている迷いや疑問も肌で感じたので、今後に活かしていきたいです。 まずは身近な医療者、相談者から経済毒性について学んだことを共有します。(実はもう心待ちにしてくれてるので)
医師の方々から「FPとの連携は必要」とおっしゃっていただけたのは、自信と今後の活力になりました。 全国展開の実現化についても進めていきたいと思います。
経済毒性に対するFPの取り組みに関心を持ってくださっている医師に出会えたことは、本当にありがたいです。
前日の会長シンポジウムでも経済毒性が取り上げられるほど注目されており、私も勉強のため参加しましたが、外国での動向や日本で行われている研究など広い視点で考えることの重要性も学ぶことができました。
このような貴重な機会を与えてくださった勝俣範之先生と、一緒に登壇したくさんの意見交換をしてくださった本多和典先生、そして色々とお願いを聞いてくださった明治安田総合研究所の皆さんには感謝申し上げます。
次の日にさいたま市主催の講演会があったのですが、冒頭で「経済毒性として今身体のつらさと同じくらいお金のつらさも注目され、取り組まれている」と説明したところ、参加者の入り込み方が今までと全く違うことに気づかされました。
今後は私も経済毒性をサポートする立場として、啓発活動にも注力し、がん患者さんのお金の悩みについてもっと普及できるよう、取り組みを続けていきたいと思います。
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筆者プロフィール
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10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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