がん治療の医療費控除で知っておきたいこと

がん治療は高額になりやすいため、医療費控除の質問も多く聞かれます。

「医療費控除はした方が良いのか。」
「いくら戻ってくるのか」
「セカンドオピニオンは入るのか?」
「医療保険、がん保険の給付金はどこまで引くのか?」
「そんなに働けてないけど、申請したほうが良いのか?」

このような患者さんからよく聞かれる医療費控除の質問を中心に、なるべく身体に負担の少ない方法で手続きが行えるコツをがん患者さんのお金の専門家 看護師FP黒田がお伝えします。

動画と一緒に観るとより理解が深まります

1.医療費控除は税金が戻ってくる制度です。

医療費の制度のなかで、高額療養費と混同されている方も中にはいらっしゃいますが、違いはこちらです。

高額療養費:健康保険の制度の一つで、人により1ヶ月の上限が決まっている。限度額適用認定証がまだだったり、世帯合算が該当し、立替払いしている場合は手続きを行うことで、キャッシュバックされるしくみ。

医療費控除:高額療養費の実費分や健康保険適応以外(詳細は後述)の医療費などが多い場合に税金の一部が戻ってくるしくみ。

今回お伝えする医療費控除は「税金」つまり所得税です。

医療費控除はこのような流れで進みます。

  1. 所得を得ている方は毎月所得税が引かれる。
  2. 年末の源泉徴収票に1年間の所得税の金額が記される。
  3. 年明けの確定申告で医療費の申告をする。
  4. 源泉徴収票の所得から3.(全額ではありませんが)が引かれ、所得税の再計算。
  5. 支払っていた所得税の範囲内で戻ってくる。

2.所得税が発生していなくてもメリットはある

ただ、医療費控除は所得税の戻らない方でも、所得を小さくできるというメリットがあります。

前年の所得をもとに計算される保育料や住民税が安くなる可能性がありますので、手間はかかりますが、メリットの大きい方には行っておくことをお勧めします。

また、生計を一緒にしている家族に所得税が発生している方がいれば、その家族が確定申告することで、家族の所得税が戻ってきます。世帯分離をしていても、別居であっても生計が一緒であれば一緒に行えます。

別居の場合は仕送りなどの記録として振込の記帳をしておくと良いですよ。

ちなみに2023年1月~12月の医療費に関する医療費控除に関しては2024年から2028年まで5年間、提出することが可能です。

3.支払った医療費が全額戻ってくるわけではないので注意

その年の1月1日から12月31日までの間、10万円(所得が200万円未満の場合は収入の5%)を超えた額が控除対象となり、「収めた税金の一部が戻ってくる」というしくみです。

医療費控除によって、「支払った医療費が戻ってくる。」のではなく、「支払った税金が還付される。」ことになります。

つまり、どんなに医療費がかかっていても、所得税が発生していない、このような方は医療費控除が利用できません

  • 休職中で収入がない方(傷病手当金は非課税です)
  • 年金収入のみの方
  • 住宅ローン減税やふるさと納税などで既に所得税の戻りがある方

同じ医療費だとしても、所得税の税率によって還付される金額は異なります。

「医療費同じくらいのあの人は、このくらい戻ってきたから」という情報ではなく、あなたの所得で確認することが大切です。

1月になると国税庁の確定申告のページが開設されます。
ここで金額を入力していくと、あなたが医療費控除をした場合に還付される金額がわかります。

4.医療費控除でのがん保険給付金の注意点

医療費から保険で補填された分は差し引きます。

高額療養費から戻ってきた部分や(世帯合算も含みます)医療保険、がん保険の給付金です。
ここでのポイントは項目ごとに照らし合わせるということです。

1回の入院費→入院給付金、手術に対して手術給付金といったように照らし合わせて相殺していくという形です。

ですから給付金がいくら多いからといってもすべてが相殺されずに医療費控除を行える方もたくさんいますので、大変ですが照らし合わせてみましょう。

医療費控除で補てんされるがん保険給付金を引く時の注意点

確定申告の時点で医療費を補てんする保険金等の額が確定していない場合は、補てんされる保険金等の見込額に基づいて計算します。後日、補てんされる保険金等の確定額と当初の見込額とが異なる場合には、修正申告又は更正の請求の手続きにより訂正しましょう。

がんと診断されたら50万円、100万円というような、がん保険の「診断給付金」や働けないときの「就業不能保険」に関しては、医療費を補てんするという目的ものではないので、基本的には医療費から引く必要はありません。 

ただ、同じ給付金の名前であったとしても、各保険会社で意味合いが異なるケースもあります。
しかし民間の医療保険・がん保険・就業不能保険の医療費控除に関しての最終決定は管轄の税務署です。
税務署に確認しておくと安心ですね。(確認された時の担当者のお名前を控えておくと安心です)

5.実際のところ、いくら戻ってくるのか?(目安)

計算例:医療費控除のおおよその目安

例)課税所得250万円(所得税率10%)の方が、治療で年間100万円を支払った場合

① 医療保険・がん保険の入院・手術などの給付金(診断給付金は除く)50万円を引いて10万円を超えるのは40万円。

② 40万円×税率10%で、還付される金額は4万円

例)課税所得150万円(所得税率5%)の方が治療で年間50万円支払った場合

① 150万円×5%=7万5,000円

② 7万5,000円を超えるのは42万5,000円

② 42万5,000円×税率5%で、還付される金額は2万1,250円

※所得税の税率によって還付される金額は異なります。

6.がん治療の医療費控除の対象で多い質問

健康の維持・増進目的は対象外です。医師が治療に必要と判断したかがポイントとなってきます。がん患者さんから良く聞かれる質問を中心に説明しますが、最終的にはお住いの管轄の税務署が判断しますので、おおよその目安にしていただければと思います。(詳細は国税庁ホームページ

① 通院費、宿泊費
⇒対象、領収書必要なし。タクシーは体調によりバス、電車も難しく、やむを得ない場合は対象、領収書が必要。ホテルやウィークリーマンションなどの宿泊費は対象外。

なお、交通費に関しては原則患者さんご本人のみです。患者さんが一人では通院できない場合など理由がある場合は各税務署にご確認ください。

② セカンドオピニオンの費用
⇒交通費も含めて対象

③ 国内で未承認や保険診療以外の治療
⇒医師が治療行為として必要であると判断した場合は対象。医師の処方に基づかない代替療法は除く。

④ 診療情報提供書
⇒対象。

⑤ 人工肛門(ストマ)の装具
⇒対象。医師による「装具使用証明書」が必要。

⑥ 乳房再建の費用
⇒術式による。美容目的は対象外。

⑦ 個室の差額ベッド代
⇒本人や家族の都合だけで個室に入院したときなどの差額ベッドの料金は対象外

⑧ 診断書の代金(職場、保険会社など)
⇒対象外。治療のために必要ではないため。

⑨ 医療用ウィッグ、専用下着など
⇒対象外。ただし都道府県で助成金対応しているところもある。

⑩ リンパ浮腫用弾性用スリーブ・ストッキング
⇒リンパ浮腫等治療目的で使用されている弾性ストッキングは医療費控除の対象となる場合があるので各税務署にお問合せを。健康保険制度で申請書により「療養費支給」がある。

 マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価

⇒対象。ただし、疲れを癒す、体調を整えるといった治療に直接関係のないものは含まれません。

⑪ サプリメント、健康食品

⇒対象外

⑫ 人間ドック
⇒対象外。しかし人間ドックの結果がんが発見され、治療を行った場合は「治療に先立って行われる診察と同様に考えることができる」ため、対象。

⑬ 妊孕性保存(にんようせい)のための卵子・精子凍結保存
⇒対象外。しかし都道府県で助成金対応しているところもある。厚生労働省が補助検討、2021年実施を目指している。

7.いつ、どのように行うのが良いか?

1.混んでいる時期はずらす

患者さんの中には無理をして確定申告の時期に手続きに行く方もいますが、混んでいる時期に行く必要はありません。医療費控除に関しては確定申告の時期以外にも受け付けています。郵送でも受け付けています。

過去5年以内のものであれば医療費控除の手続きは可能ですが、その年の所得と医療費で申告するという点に注意しましょう。

確定申告の時期は体調が思わしくなく、手続きが難しいという方は、時期をずらす方法もありますが、国税庁のホームページから医療費や源泉徴収票など入力し、確定申告書のプリントアウトして、郵送という方法があります。

また、カードリーダー(一部スマホでも可)とマイナンバーカードを準備すると、e-Taxにて電子申請することも可能です。
→2022年1月からは カードリーダー 無しでも可能になりました。
詳細は国税庁からのご案内をご覧ください。

2.確定申告期間の3月15日までに行う

確定申告の時期に医療費控除は申告をすることのメリットとしては、住民税の金額も減ることですね。年末調整や確定申告をすると、自動的に住民税も申告したことになります。住民税は前年の所得に対して税額が決まるので、医療費控除を受けるために確定申告をした人は、申告後の正しい課税所得で計算し直されることになるのです。

例)総所得金額が500万円(所得税率は20%)、支払った医療費が30万円、基礎控除38万円(住民税は33万円)のケース

●医療費控除を受けない場合
(1)所得税
(500万円-38万円)×20%-42万7500円=49万6500円
(2)住民税
(500万円-33万円)×10%=46万7000円
(3)(1)+(2)=96万3500円

●医療費控除を受ける場合
(1)所得税
(500万円-[30万円-10万円]-38万円)×20%-42万7500円=45万6500円
(2)住民税
(500万円-[30万円-10万円]-33万円)×10%=44万7000円
(3)(1)+(2)=90万3500円

このケースですと、医療費控除を受けた場合所得税は4万円の減額、住民税は2万円の減額となります。計算は少し複雑なので、不明な点は管轄の税務署に確認すると良いでしょう。

8.医療費控除が行えない方へ

医療費はかかったけれど、その年の所得が少なく医療費控除が行えないという方は、他に利用できる制度があるのか確認することや、家計のやりくりの方でお金の悩みが軽減できる可能性がありますので、おひとりで悩まずにお気軽にお問合せください。

私、黒田は10年間の看護師の経験から痛感した「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」に対し、FPのお金の知識を活用して、一人でも多くの方に安心した治療生活を送っていただきたい、そんな思いで日々取り組んでいます。

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筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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