【がん治療の事例を基に解説】2026年高額療養費制度の見直しで負担が増える患者さんが今できること
2026年から高額療養費制度が大きく見直されます。
今回の見直しは「人によって負担額が増える・減るが分かれる」「特に高額な治療を行うがん治療では、年間上限が定まるとはいえ、治療スケジュールによって大きく変動する可能性がある」ことが特徴です。私はがん患者さんのお金の専門家、看護師FP®として、今回は「患者さん個々の負担」に焦点を当て、「高額療養費制度の見直しについて」令和7年12月25日第209回社会保障審議会医療保険部会、第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会の資料を基に、治療の継続のために必要な情報をお届けしたいと思います。
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高額療養費見直しに対するがん患者さんの声
高額療養費の見直し案発表後に、患者さんやご家族を対象に12/24緊急アンケートを実施しました。がん患者さんの声の一部をご紹介します。

リムパーザを無期限(効果のあるかぎり)で内服しているので、ほぼ毎日限度額の支払いです。こんなに増額されたら治療継続できません。

再発したら標準治療の支払いが叶うか不安で、終わりだと覚悟はしています。

せめて子育て中の未成年の子供を持つ親世代だけでも、優遇できないでしょうか。

前回の引き上げ反対の声を無視しているようだ。

継続的に抗癌剤治療をしておりますが、私の勤務先は年俸制のために年収は低いのに月額報酬が高い事から治療費を支払うのがとても辛い状況です。改定するなら、あくまでも年間収入で区分設定するように改定出来ませんでしょうか。

現在は治療は一段落しましたが、年次検査や再建のフォローなどはまだまだ続きます。年齢もあり今後他の病気もあり得る年頃です。お金の心配はありますよね。
高額療養費制度見直し案の経緯
「高額薬剤の開発・普及等を背景に医療費全体が増大する中において、医療保険制度はもとより、高額な医療を必要とする状態になった場合における極めて重要なセーフティネット機能である高額療養費制度を将来にわたって堅持していくためには、制度の不断の改革に取り組んでいかなければならない。」(令和7年12月16日高額療養費制度の在り方に関する専門委員会「高額療養費制度の見直しについて」)という考えのもと、8回にわたり高額療養費制度の在り方に関する専門委員会が開催されました。
患者団体や専門家のヒアリングも重ね、「長期療養者や低所得者への配慮」「急激な負担増を避ける」など、多角的な視点で議論され、「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」を基に、政府から出されたのが今回の見直し案です。
12月24日に厚生労働相と財務相が2026年度予算案を巡る折衝で合意しました。今後は1月の通常国会での予算審議にて議論されていく予定です。
主な見直し内容
今回の大きな見直しポイントは、「所得区分の細分化」です。これにより、所得区分の変更に応じて自己負担限度額が急激に増減しないよう配慮されています。
昨年末に出された案と比べると、引き上げ幅はやや抑えられましたが、年収510万円以上の層では自己負担限度額の引き上げが依然として大きいことが特徴です。
この背景には、「破滅的医療支出」に該当しないと判断されたことがあるかもしれません。
しかし、中~高所得の働く世代の患者さんから家計相談を多く受けている立場としては、高額療養費制度を利用する治療では収入減少が起こりやすく、住宅ローンや教育費などの支出も重なります。そのため、「破滅的医療支出」の算出方法によっては、治療継続と子どもの教育や家族との生活の間で選択を迫られる方が、今まで以上に増加することが懸念されます。
このような医療費負担が家計や生活の質に深刻な影響を及ぼすことを「経済毒性(financial toxicity)」として、がん治療の進歩とともに世界的にも問題視されており、経済的負担の軽減に対する支援の在り方などが医療従事者を中心にひろまってきています。
破滅的医療支出とは
家計の医療費負担が家計の支払い能力(非食品支出や所得など)の一定割合(主に40%)を超え、家計が経済的に破綻するレベルに陥る状態。WHO(世界保健機関)も定義する国際的な概念。
一方で、今回長期療養者と低所得者への配慮が重点的に行われ、多数回該当が据え置きとなったことは大きなポイントです。
多数回該当とは、過去12か月以内に3回以上、自己負担の上限額に達した場合、4回目からは上限額が下がるという高額療養費制度の仕組みです。
長期治療は、継続できないと生命に直接関わるリスクがあり、また生活状況の維持も困難になる可能性があります。そのため、多数回該当の仕組みが維持されたことは、患者さんやご家族にとって非常に重要な意味を持つと考えます。
一方で、短期間に高額な医療費が発生した場合には、自己負担が増えるケースもあります。しかし、この点についても新たに自己負担額の年間上限が導入されるため、今後は「年間でどこまで負担が増えるか」を見据えた対策が、これまで以上に重要になると考えています。

今回は低所得者への配慮も重点的に行われました。年収200万円未満の方については、多数回該当の上限額も引き下げられています。
また、70歳以上の外来特例の見直しについては、年金の伸び率に応じて上限額が引き上げられましたが、収入源が年金のみという層に対しては、引き上げ幅が抑えられるよう配慮されています。
外来特例の対象年齢については、高齢者の窓口負担の見直しとあわせて今後も検討が続けられ、令和8年度中には順次実施される予定です。
なお、窓口負担を2割に引き上げた70~74歳の患者さんは、1割負担の患者さんに比べて医療費が減少したものの、健康状態や健康行動には差がなかったという研究論文もあります(出典:「Dynamics of Consumer Responses to Medical Price Changes」2025年12月 American Economic Review: Insights、早稲田大学政治経済学術院 別所俊一郎、京都大学経済研究所 古村典洋特命准教授)。
この検討は医療制度全体における重要なテーマであり、今後の議論の動向を注視していきたいと考えています。
そして、OTC類似薬の費用負担については、今後も議論が続く見通しです。患者さんの自己負担がどのように変わるか、引き続き注視していきたいと考えています。
では実際、個々に支払う医療費はどうなるのでしょうか。
ケースごとに注意点を解説
12/24に実施したアンケートでは、このような具体的な不安も寄せられました。

2023年11月子宮体癌の手術をし、術後TC療法を8クール、手術で取りきれなかったリンパ節が再発して、2025年2月から免疫チェックポイント阻害剤キイトルーダで治療しています。最初の治療で10ヶ月仕事を休み収入が約20%減になりました。今の治療は仕事をしながら3週間に一回点滴に行っています。年収は700万ほどです。今の治療も長期戦なので医療費の負担は毎月限度額いきます。
Aさんのように、現段階で毎月自己負担限度額に達している方と、そうでない方では今後大きく変わります。
多数回該当の対象者

現時点で高額療養費制度の多数回該当になっている方は、2026年8月以降も大きな変化はありません。40歳代の標準報酬月額34万円の方は、現在の高額療養費の所得区分「ウ」の多数回該当44,400円が12ヶ月続くと532,800円となりますが、2026年8月からも年間上限530,000円とほぼ変わりありません。
ただし、副作用や病状の変化などで治療を一時中断(休薬)した場合、多数回該当の条件から外れる可能性がある点は、現行制度と同様に注意が必要です。
現在、高額療養費の自己負担限度額に達しない方

例えば、現行制度では上限額が「80,100円+1%」のため、毎月ギリギリ上限に達せず、年間で76.7万円かかっているケースがあります。
しかし、2026年8月以降は年間上限が導入されるため、例えば3月の時点で年間上限(53万円)に達した場合、それ以降の医療費負担が大きく減る可能性があります。
ただし、3月から7月の間は一旦自己負担を支払う必要がある点に注意が必要です。「年間上限を超えて支払った自己負担額については保険者から償還を行う」とされているため、加入している健康保険に申請して払い戻しを受ける形になる見込みです。マイナ保険証などで自動的に処理される仕組みが今後整備されることを期待したいところです。
また、今回の資料のケースからは、健康保険の運用上、現在の外来特例と同じく8月~翌年7月が年間上限の1年の区切りとなる可能性が高いです。そのため、治療開始時期や継続性、月額上限によっては、年間上限に達するタイミングに個人差が出ることが予想されます。
とはいえ、年間上限のために治療内容を変更してしまっては本末転倒です。「多く負担したとしても年間上限がある」という認識で、年間の医療費や生活費の見通しを立てていくことが大切だと考えています。
見直しにより限度額に行かなくなるケース

現行制度では、上限額が「80,100円+1%」のため、8月・10月・11月に自己負担限度額に達し、多数回該当となっていたケースでは、年間の自己負担は約55.2万円でした。
しかし、見直し後は月額の自己負担上限が引き上げられることで、例えば8月のみが85,800円(令和9年8月からはさらに引き上げられる層も)に達し、それ以降の月はギリギリ自己負担限度額に達しなくなります。その結果、多数回該当にもならないという仕組みになります。
このように、同じ所得区分・同じ治療内容であっても、今年と来年で費用のかかり方が変わるため、情報収集や参考にするデータには注意が必要です。
ただし、このケースでは2月に年間上限に達するため、年間の自己負担額は53万円に減少します。一時的には多く支払う必要がありますが、最終的な総額は減る(払い戻しがある)という、やや複雑なケースです。
ひと月で年間上限に達するケース

年間上限の導入によって、特に大きく変わるのがこのようなケースです。
例えば、1月に4,960万円の高額な治療を受けた場合、現行制度では「80,100円+(4,960万円-267,000円)×1%」で573,430円の自己負担となります。
見直し後は、月額負担が「85,800円+(4,960万円-286,000円)×1%=578,940円」となり、月単位ではやや増加しますが、年間上限の53万円に達した時点でそれ以上の自己負担は発生しません。
2月以降に医療費がかかった場合も、一旦は自己負担を支払う必要がありますが、年間上限を超えた分は保険者(加入している健康保険)から払い戻しを受けることができます。そのため、現行制度よりも年間の自己負担総額は減少し、負担軽減が期待できるケースです。
負担が増加するケース(特に年収510万円以上の方)

月額負担が増えるものの、年に数回だけ高額な医療費が発生する場合、年間上限に達せず、現行よりも自己負担が増える可能性があります。
この所得層は、私が最も懸念している部分です。現行制度では「80,100円を超えた分は1%」の自己負担でしたが、見直し後は85,800円(令和9年8月より110,400円)となります。特に固形がんの治療など、短期間に高額な医療費が発生するケースでは、こうした影響を受ける方が増えると予想されます。
現行制度でも年収770万円以上の方は限度額上限に達するハードルが高いですが、見直し後は年収510万円以上の方も月額自己負担が引き上げられるため、治療方針が決まった段階で医療費と収入の見通しをしっかり立てておくことが、これまで以上に重要になると考えています。
医療費の見通しと共に収入減への対策も早めに!
患者さん個々の治療スケジュールや所得区分によって、負担の差が複雑になるため、これからは自分の収入、自分の治療スケジュールでの医療費の見通しを立てていくことが大事です。また、先ほどのAさんのように収入減となった場合には、医療費の支払いと日々の生活が維持できるような生活設計の立て直しも必要です。あらかじめ年間上限が分かるようになりましたが、一旦は支払うことも視野に入れながら検討していきましょう。ただし、やみくもに食費や光熱費を減らしたり、生命保険を解約することはお勧めできません。
治療を行う体力を維持しながら、無理せずに生活設計を立て直していける方法は一人一人違います。
治療方針が決まった段階で早い時期に対策を立てていけるためにも、決して一人で抱え込まずに病院のがん相談支援センターで制度の情報を確認したり、治療生活に詳しいFP(ファイナンシャルプランナー)と一緒に今後の生活設計について考えていくことも有効です。
先日のアンケートでは「昨年案との混同」や「自分のケースが分からない」まま不安を抱える方もいました。
私が代表を務める、一般社団法人患者家計サポート協会では無料相談を毎月行っていますので、「自分の医療費のかかり方を知っておきたい」「現行の高額療養費制度であっても支払いが大変」という方はぜひご利用ください。専門の相談員が分かりやすくご説明します。
私、黒田は10年間の看護師経験を持ちながら、「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」が多くの患者さんにとって大きな負担であることを痛感してきました。FPのお金の知識を活用し、一人でも多くの方に安心した生活を提供したいという思いで、日々活動しています。
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家計相談のご案内
治療費の不安を解消したい方に向けて、マンツーマンで行うオーダーメイド家計相談を行っています。
- 完全予約制で毎月新規の受付は3名限定です
- 継続相談が多いため、早めのご予約をおすすめします。
- 今月の枠が埋まっている場合でも、来月のご案内を優先的にさせていただきます。
筆者プロフィール

- がん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
-
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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近著:【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話 (彩図社)
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