高額療養費制度の附帯決議から考える|破滅的医療費支出と教育費・住居費・収入減の課題
健康保険法の改正案は4月28日に衆議院を賛成多数で通過し、附帯決議が採択されました。
附帯決議の中には、高額療養費制度の見直しにあたり、「療養等に必要な費用の負担が家計に与える影響」や、「給与等の収入の状況及び当該収入の変動状況」、「子等の扶養に係る支出、とりわけ教育費に係る支出等の状況」など、生活実態への配慮を求める内容も盛り込まれています。
医療費だけを切り離して考えないという方向性は、とても重要だと感じています。
しかし、「生活背景をどこまで医療制度に反映させるべきなのか」という点については、今回の附帯決議を読みながら改めて考えさせられました。
日々、がん患者さんの制度と家計の相談を行う中で感じている、「家計に占める医療費割合」だけでは負担の重さを捉えきれない難しさや、医療制度と教育費を含めた家計全体との関係について、改めて考えてみたいと思います。
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高額療養費に関する附帯決議の内容
「健康保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」に記載されている、高額療養費制度に関連するのはこの3つです。
十 医療保険制度において、高額療養費等の制度が国民の生命及び生活を守る上で欠くことのできない中核的な役割を果たしていることに鑑み、将来の見直しに際しても、高額療養費等の支給を受ける者が療養等に必要な費用の負担により生活に困窮することのないよう、高額療養費等の支給要件、支給額その他高額療養費等の支給に関する事項は、高額療養費等の支給を受ける者の「療養等に必要な費用の負担が家計に与える影響」及び「必要かつ適切な受診に与える影響」を考慮して定めること。また、その際には、高額療養費等の支給を受ける者の「給与等の収入の状況及び当該収入の変動状況」、「子等の扶養に係る支出、とりわけ教育費に係る支出等の状況」及び「療養等の状況等の生活の実態」など、高額療養費等の支給を受ける者の多様性に留意すること。さらに、高額療養費等の支給を受ける者の収入の状況等に応じ、きめ細かく、かつ、できる限り利便性に配慮した支給要件とすること。加えて、高額療養費等の支給要件、支給額その他高額療養費等の支給に関する事項を定めるに当たっては、引き続き、その手続に当たり、高額療養費等の支給額の算定に関する資料その他の必要な資料を提示して、高額療養費等の支給を受ける者、高額療養費等の支給を受ける者に対する医療に従事する者、高額療養費等に関して学識経験を有する者、保険者や保険料納付者である労使等を社会保障審議会に参画させ、その意見を聴くための措置を講ずること。
十一 高額療養費制度の支給要件等の見直しに当たっては、多数回該当や年間上限に該当しない患者であっても必要な医療へのアクセスが阻害されないように留意すること。また、制度の見直しによって、国民の健康状態の悪化や医療費の増大につながることのないよう、所得区分別、年齢別、疾病別など詳細な影響を継続的に検証し、必要に応じて速やかに見直しを行うこと。さらに、制度の一層の機能強化に向け、保険者間の情報連携などの方策について検討を進めること。個人事業主の長期の療養の保障に向け、被用者保険との格差是正に向けて検討を進めること。
十二 高額療養費制度において、現役世代の負担軽減に向け、保険者変更に関わる多数回該当の初期化、合算可能レセプトに係る金額要件や歴月単位判定、償還払いによる一時的負担など制度運用の改善に向けて継続的に検討を進めること。
引用:衆議院「健康保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」
今回の附帯決議を読み、特に気になったのはこの3点です。
- 制度が複雑化せず、公平性の議論がしやすい「生活背景」の範囲
- 教育費や住宅といった「選択の要素」を含む支出の捉え方
- 収入減への対応策
生活背景をどこまで医療制度に考慮するのか?
十に「療養等に必要な費用の負担が家計に与える影響」と記載されていますが、こちらに関しては「高額療養費制度見直しと実態調査の必要性」でも触れていますので、ご覧ください。
教育費や住宅費など「選択の要素」を含む支出をどう捉えるのか?
近年は「破滅的医療費支出(catastrophic health expenditure)」という考え方も広がっています。
医療費が家計に占める割合が大きくなることで、生活が立ち行かなくなる状態を示すもので、医療費負担の重さを可視化するうえで重要な視点です。
破滅的医療費支出とは
WHOでは医療費の自己負担額が医療支払い能力の40%以上のことを定義されています。医療費支払い能力とは、家計の総消費額から基本的ニーズ(食費、住居費、水道光熱費など)にかかる基準額を差し引いた額のことを言います。
ただ、その家計の中には、住居費や教育費など、家庭ごとの状況や選択が反映される支出も含まれています。
そのため、破滅的医療費支出という考え方は、医療費負担の重さを測る指標として有用ですが、実際の家計への影響を一律に判断することは難しく、個人的には「このご家庭の場合は破滅的医療費支出なのでは」といった表現が適しているのではと考えています。

そもそも、医療費は個人に発生する支出ですが、それを支える収入や生活費は「世帯単位」の家計で成り立っています。
実際の生活では、誰の収入で生活しているのか、教育費や介護費を誰が負担しているのかなど、家計構造は家庭によって大きく異なります。
そのため、「家計に占める医療費割合」だけで負担の重さを一律に判断することには、難しいと感じています。
同じ収入水準でも、収入を支える人数や働き方によって社会保険料や医療費負担は変わりますし、収入減少時に補える貯蓄・資産の有無によっても、家計への影響は大きく異なるためです。
例えば、教育費と一言でいっても、その内容は様々です。
義務教育の授業料や給食費といった既に広く支援されている部分がある一方で、大学進学や私立学校、塾や習い事などは、家庭ごとの価値観や地域差、将来設計によって大きく異なります。実際、健康で共働きでも、教育費を捻出するためにぎりぎりで生活している家庭は少なくありません。
もちろん、進学や教育環境は単純に「自由な選択」と言い切れるものではなく、地域差や家庭環境、将来への期待なども大きく影響しています。
高額療養費を利用しながら教育費を抱える家庭への配慮は必要です。
ただ、医療費負担の配慮に反映していくべき範囲は大変難しく、
・どこまでを考慮対象とするのか
・どの程度まで公助で支えるのか
・家庭ごとの選択の違いをどう扱うのか
といった線引きが難しくなり、制度の複雑化や公平性の議論につながる可能性があります。
教育費や扶養に関する課題には、すでに給付型奨学金(日本側や民間団体など、大学独自の支援もあり)や教育支援、税制など、別の支援も存在していることも踏まえた議論が必要です。
また、住居費についても、持ち家・賃貸、都市部と地方などで差が大きく、家計に占める割合は家庭によって異なります。これまでに高額療養費制度の議論に出てきている家計データは総務省の家計調査であり、必ずしも住宅ローン負担などが十分に反映されているとは言い切れません。実際の相談現場では、住居費が医療費と同程度、あるいはそれ以上の負担となっている家庭も少なくありませんでした。
「高額療養費等の支給を受ける者の多様性に留意すること」に関しては、こうした固定費を含めた家計全体をどう捉えるのかについても、今後さらに議論が必要なのではないかと感じています。

患者さんの相談を受けている立場からは、すべてを高額療養費制度の中で調整しようとするのではなく、
・医療費は医療保険制度
・教育費は教育支援や税制(16歳未満の年少扶養親族の扶養控除の再検討など)
・収入減少は所得保障制度
というように、それぞれの制度の役割を整理しながら、家計全体を複数の制度と家計支援の視点で支えていくこと必要なのではないかと感じています。
収入減への対応策も重要
十一「個人事業主の長期の療養の保障に向け、被用者保険との格差是正に向けて検討を進めること。」と挙げられています。個人事業主の長期の療養の保障に触れられたのは大きな前進と感じますが、実際には職種の分類や就業可能か不能かの判断といった手続きの煩雑さからも自治体で担うことには限界があります。
現在でも国民健康保険組合によっては傷病手当金が支給されるところもありますので、拡充していくというのが現実的なのかなと感じています。(参考:全国の国民健康保険組合一覧)
国民健康保険に関しては、パートやアルバイトの方も加入していることからも、どこまで範囲を広げるのか、保障の範囲も難しいかと思います。
相談現場で感じているのは高齢者が病気をきっかけにパートやアルバイトが行えなくなり、医療費の支払いや生活に支障を来たしているケースが多くなってきていることです。生活困窮者自立支援制度の貸付にも生活保護にも該当しない方々を、どのように支えていくのか。
医療費の負担軽減だけでは解決できない生活課題も含め、今後さらに議論が必要だと感じています。
制度運用の改善で負担軽減できることも多い
十二では、高額療養費制度の運用改善についても触れられています。
「保険者変更に関わる多数回該当の初期化」については、退職時や家族の扶養に入るほか、国民健康保険における国民健康保険で都道府県をまたぐ転居などでも生じています。
また、多数回該当が継続して適用される場合であっても、実際には引き継ぎまでに時間を要するケースもあり、現場では患者さんの負担増に直結しています。
「合算可能レセプトに係る金額要件」については、69歳以下の世帯合算で1件あたり21,000円を超えないと合算対象にならない点が国会でも議論されていました。
これに対し、厚生労働大臣からは見直しには約1,000億円規模の財源が必要との説明もあり、厳しい医療保険財政の中で、実現には課題もあると感じました。
しかし、近年は手術・放射線・薬物療法などの専門的治療を中核病院へ集約する流れが進むなか、副作用対策やリハビリ、支持療法などを地域の医療機関と連携しながら行うケースも増えています。
その結果、一人の患者さんが複数の医療機関を受診することも珍しくありません。こうした医療提供体制の変化を踏まえると、世帯合算における金額要件については、今後さらに議論が進むことを期待したいところです。
また、「償還払いによる一時的負担」についても、実際には高額な医療費をいったん立て替えることで家計が逼迫するケースは少なくありません。
医療費そのものだけではなく、収入減少や生活費への影響も含めて考える必要があることからも、早急に検討を進めていただけることを期待します。
医療費負担や収入減を和らげる「家計支援」の役割

給付や保障による支援は重要ですが、制度だけですべてを支えることには限界もあります。 がん患者さんの制度と家計の相談を専門としているFPとしては、利用できる制度を組み合わせながら、医療費負担や収入減を和らげ、治療生活を安心して続けられる環境を整えていくための家計支援が、今後さらに重要になると感じています。
私、黒田は10年間の看護師経験を持ちながら、「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」が多くの患者さんにとって大きな負担であることを痛感してきました。FPのお金の知識を活用し、一人でも多くの方に安心した生活を提供したいという思いで、日々活動しています。
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筆者プロフィール

- がん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
-
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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近著:【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話 (彩図社)
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