看護師や医療ソーシャルワーカーが行えるがん患者の社会的苦痛ケア

がん患者さんのお金の専門家 看護師FPの黒田です。

立場上、医療従事者とお話する機会が多いのですが、特に医療ソーシャルワーカーや看護師から、「なぜFPが医療現場に介入するのか」「医療従事者としてどこまで経済面のアドバイスしていいのか。」と聞かれることも少なくはありません。

私自身、病院での勤務時代からこのことを考えていました。引っかかっていた部分ですが、病院を退職しFPとして個人事務所を開業して5年目となり、がん患者さんやご家族の家計相談に対応する中で答えが明確になってきました。

ここ数年でがん患者さんへの社会的苦痛のケアが注目され、患者さんへの情報提供が進むことで、QOLの向上にもつながり良い傾向だと感じています。

一方でトラブルも生じてきているため、「医療従事者としてどこまで経済面のアドバイスしていいのか。」をもう一度振り返る時期だとも感じています。

これは「なぜ医療従事者が患者の込み入ったお金の相談対応が難しいのか」と大きく関連します。理由は時間・責任の所在・専門性の大きな違いともう一つあります。

では順番にご説明しますね。

患者さんのためにどうしていったら良いか、一緒に考えましょう!

お金のアドバイスを行う時間がない

言わずもがなですが、お金の相談というのは個人差があり、まず情報収集に時間がかかります。

分刻みで動いている医療従事者にとって患者家族の収入・支出、貯蓄、保障内容、住宅ローン…他の患者さんを待たせてまではとても行えません。しかしここをきちんと聞き取らなければアドバイスはできません。

私は病棟や外来での業務をしている時、振り向いたら他の患者さんが待っている中で電卓を叩いて住宅ローンの計算や生活設計まではとても行えませんでした。

相談に従事していたとしても、現状の相談件数で手一杯な病院がほとんどである中、一人の患者さんにここまで時間を割くのは難しいでしょう。


ノンストップで相談が行え、手厚いケアが行えるという意味では医療職によるお金の相談も有効です。

しかし患者さん一人に対する時間がかかることで、他の患者さんにしわ寄せがくるというリスクも発生します。

問題が起こった時の対応はどうするのか?

病院内で医療従事者として経済面のアドバイスをするということが、どういう意味を持つのか。

経済面のアドバイスを医療者がサービスで行うということになります。

医療従事者の本業は医療やケアの提供なので、経済面は社会的苦痛のケアと言えど、アドバイス内容は医療の範疇を超えているため、各医療従事者がサービスで行うということです。

このサービスでのアドバイスが非常に怖いところです。

守ってくれるものがありません。

実際にこうした医療従事者によるサービスでのアドバイスの提供により、最近トラブルが生じていることも強くお伝えしたい理由の一つです。

私はFPとしてフォローに回って対応していましたが、患者さんやご家族が「医療従事者の○○さんがこう言ってくれたから…」と泣きそうな表情でおっしゃっていたのを忘れることはできません。

アドバイスをした医療従事者は悪気はなく、患者さんのために調べて伝えてあげただけなのですが、患者さんやご家族の希望とする結果にはならなかったのです。

制度やお金の問題というのは一度解決策を実行し始めると、もう戻ることはできません。

そのアドバイスによって患者さんやご家族の生活、お金が変わってしまうこともあります。

医療の提供は身体を左右することもある重要なことですが、経済面のアドバイスの提供は患者さんだけでなく家族の生活、将来をも変えてしまう可能性があるので、サービスで伝えきれる内容ではなく、専門職が責任もって取り組む内容だと痛感しています。

社会保険労務士が障害年金の代行業務を行ったり、税理士が税務を行うような独占業務がFPにはありませんので、お金のアドバイスを行うこと自体は問題がありません。

しかしアドバイスを行う以上責任を持って継続的に対応していくには、資格を持ったものの責任感というのは大切だと実感しています。
医療職と専門家、それぞれの専門性を高めていくことが患者さんへの包括的なケアへつながるのです。

相続のアドバイスも同様です。ご本人がいくら納得されていたとしても、後々遺族間で問題が起きないとも限りません。

医療従事者の方が経済面のアドバイスを踏み込んで行っていきたいとおっしゃっていただけることも少なくはありません。

私は医療従事者自身の身を守るためにも、患者さんに伝えたい気持ちが強いなら医療従事者を辞めて経済面の専門職となってからの方が良いとアドバイスしています。

今後、この分野が診療点数がつくなど、環境が変われば話も変わってくるかと思いますが…

継続していくには知識量の保持も必要ですが…

看護師の経験を持つ身としては、ここもかなり大変だと感じています。
看護師だと看護研究や委員会、その他ラダーなど業務以外に行うことが多いです。そして新しい治療法についての勉強会もあります。

一方でFPや社会保険労務士も毎年制度改正があり、知識のブラッシュアップを行っています。

社会保険上の扶養の条件や相続関連、住宅ローンなど常に変わっています。

このように、経済的な相談を医療従事者が行うということは、得られるメリットよりもデメリットの方が大きいため、看護師を経験したFPとしてはお勧めしていないというのが実情です

一番の理由は患者・家族に一番近い存在であること

お金や制度のアドバイスにおいて大切なのは、感情を切り離し専門家として接することなのですが、患者さんやご家族の心身のつらさを一番身近に接し、寄り添っている分それが難しいことがあります。

また、経済面の内情を詳しく知りすぎることで、医療従事者としての関わり方の変化も出てしまう可能性があります。

ここまでお読みになると、「では医療従事者は社会的苦痛のケアに携われないのか」と感じると思いますが、そうではありません。

医療従事者だからできることがあるのです。

医療者としてどこまでアドバイスしたら良いのか…線引きは?

まずはどのような患者・家族が経済的に困っているのか、困りそうなのかのスクリーニングです。

医療者、特に看護師や医療ソーシャルワーカーは一番近くで患者・家族と接しています。社会面の情報収集を行う際に自営業・一人暮らし、小さな子供がいる…などで声かけが行えれば、困りそうな方が実際に困る前に早期対処できるきっかけとなるのです。

この時、制度やお金のやりくりについて詳しい説明は必要ありません。大切なのはどこに何を持参し、どのように聞けば解決するのかです。時間もそんなにかかりません。

がん制度ドックを患者さんやご家族と一緒に行うのも一つの方法だと思います。その時の体調に合わせて、現在どんな制度が申請できる可能性があるのかをリストアップすることができます。

タイミングをつかみ、情報提供できることは医療従事者にしかできないことであり、とても重要な社会的苦痛のケアだと思っています。

そして、制度ややりくりの概要がわかったけれど、個別的にどうなのか?といった際には専門家との連携が必要になってきます。

それは高額療養費や傷病手当金など公的な制度では解決が難しい内容です。
このような複雑なお金の問題になったらFPや社会保険労務士といった専門家と連携していく方法が良いでしょう。

✅住宅ローンの返済がつらそう
✅借金の返済がありそう、でも弁護士に相談したほうが良いのかしなくても良いのか
✅子どもの教育費
✅傷病手当金があってもお金が足りないときのやりくり
✅障害年金の手続き方法(これは社会保険労務士が専門)
✅生活保護になりそうな方(元々困窮していた方ではなく、まだ他に手があるのかと疑問があるとき)

全国どこでもこの連携が当たり前に行えるようなしくみづくりとして、

●がん患者支援が行えるFPの相談員を増やすこと

●医療従事者への理解を広めていくこと

この2つを進めています。

現状はFPはまだまだ少ないので、私が電話やZoomなどで全国対応している状況です。

無料でヒアリングも行っていますので、上記のような悩みをお持ちで困っている場合はお気軽にお問い合わせください。

千葉では、理解ある医療従事者と共同で医療従事者への勉強会を企画しています。少しずつですが広まっていくことで患者さんやご家族のつらさが軽減することにつながればと思います。

看護師・医療ソーシャルワーカー対象の勉強会も行っておりますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

令和2年5月改訂

患者さんのためにどうしていったら良いか、一緒に考えましょう!

筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP
千葉で10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門の家計相談を行っています。2016年より全国から300名以上のご相談を担当してきました。
東京都、埼玉県内のがん診療連携拠点病院での家計相談員を務めています。

書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)