高額療養費の自己負担引き上げでがん患者が抱える不安と考えていきたいこと

がん患者さんの多くが利用している公的医療保険の高額療養費制度ですが、今回自己負担限度額の引き上げに関して具体的な案が固まってきました。
まだ正式決定ではなく、詳細な情報も不足している状況ですが、不安を感じるがん患者さんやご家族からの問い合わせや相談が増えています。

治療を断念せざるを得ない方や、ここには書ききれないような深刻な悩みを抱えている方もいます。

現在、確認されている情報を整理しながら、今後がん患者さんやご家族がどのように対応していけば良いのかを、がん患者さんのお金の専門家として解説します。

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医療費の引き上げ額がどう家計へ影響するのか

政府は25日、高額な医療費の負担を一定に抑える「高額療養費制度」の自己負担限度額(月額)を、来年8月から3段階で引き上げ、2027年8月に平均所得層(年収約370万~約770万円)で最大5万8500円を引き上げるなどの見直し案を固めた。福岡資麿厚生労働相と加藤勝信財務相が折衝し、合意した。

高額療養費制度、自己負担限度額を引き上げへ 25年8月から(毎日新聞2024/12/25)

一般社団法人全国がん患者団体連合会(全がん連)は、高額療養費制度における負担上限額引き上げの検討について、厚生労働大臣らに要望書を提出しました。この動きに対し、患者さんや医療従事者からも大きな反響が寄せられています。

今後の動向を注視しつつ、現時点で明らかになっている引き上げ案の内容をご紹介します。



高収入の方はもちろんなのですが、一般的な収入と言われていた層も大幅に変わってくる可能性があります。

例えば、年収370~770万円と幅が大きいこともありますが、最終段階の2027年8月からは年収510~650万円の方は11万3,400円と現状よりも3万円/月高くなります。
また、年収260~370万円の方は、現状5万7,600円ですが、最終段階では7万9,200円と2万円/月高くなります。

がん患者さんの家計を多く見てきた立場から言えるのは、例えば年収500万円程度の方の場合、ボーナスの有無にもよりますが、手取り月収はおおよそ25~30万円です。この中で、医療費が月11万円台に達すると、家計への負担が非常に大きくなります。

また、年収300万円程度の方では、手取り月収が約20万円であることが多く、医療費が月8万円になると、家計を維持することが難しくなると予想されます。
多数回該当などの条件を含めた具体的な状況を確認する必要はありますが、患者さんやご家族の不安がどれほど大きいのか、こうして数字に落とし込むと改めて実感します。

収入があるために、かえって治療を受けられなくなる可能性

現在、問い合わせが増えているのは、乳がんや卵巣がんで経口抗がん剤を年単位で長期間使用している方や、血液がんの患者さんです。
これらの薬は再発予防や現状維持のために長期使用が可能となっていますが、その一方で高額な費用がかかるのが現状です。同じ治療法でも、収入が高いがゆえに受けることが難しくなるという状況が起き得ます。

これまでは収入や資産が不足しているために治療が困難になることが多かったのですが、今後は収入に対する医療費の増加に伴い、「あの人は治療できるのに、私はできない」といった状況が様々な場面で見られる可能性があります。
また、高い収入区分では高額療養費制度の自己負担限度額に達せず、多数回該当にもならないため、ずっと3割負担が続くケースがこれまで以上に増えると予想されます。

さらに、医療費と生活費の間で悩まれる方も少なくありません。特に40代や50代の方は、教育費と医療費の負担が重なり、相談に来られるケースが多くあります。
今後は、こうした経済的な悩みを抱える方がさらに増えると予想されます。

収入減でもすぐに区分変更できないことが最大の難点

今までの内容に関しては、「結局、収入があるから仕方が無いでしょ」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、相談を受けていて高額療養費制度のもどかしさを感じているのは、収入が減ったとしてもすぐに区分変更できない点です。

就労して収入を得ている方の場合、がんをきっかけに働くことが難しくなり、収入が減ったとしても、高額療養費の区分は基本的にすぐには変更されません。
その結果、収入が減っても高い年収区分に基づく高額療養費を支払うことが求められ、大変だと感じる患者さんが多くいらっしゃいます。
今回の改定案は、この現状にさらに拍車をかける可能性があります。

自分事に捉え、考えていくことが大事

現在、この内容を注目しているのは高額療養費制度を利用している方や患者さんの経済的な負担について関心の高い医療従事者などです。
これまで大きな病気を経験したことがない方にとっては、この問題が現実味を欠いているのかもしれません。また、「がん保険に入っておけば安心」と考え、それで十分だと思われている現状もあります。
しかし、がん保険はあくまでも解決策や予防策の一つに過ぎず、この問題を根本的に解決する手段ではありません。

本当に大事なのは、この問題を「自分のこと」として捉え、多くの人が問題意識を持つことです。
特に、高額療養費制度の今後の在り方については、患者さんだけでなく、広く社会全体で議論が深められる必要があります。一人一人がこの課題について考えることが、より良い制度の実現に向けた第一歩となります。

制度改善や支援活動の充実に向けたアンケートご協力のお願い

FPとして思うのは、今後、公的制度の活用だけでは限界が生じるケースが増える中で、収入の範囲内で医療費に充てられるお金を、相談者と共に見つけるサポートがますます重要になるということです。
そのためにも、まずはがん患者さんやご家族が現状どのように感じているのか、そして支援者として何をサポートできるのかを知るために、アンケートを実施することにしました。

ぜひ率直なご意見をお聞かせください。

いただいたお声は、今後の支援活動や制度改善に向けた提案に活用させていただきます。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。(5分ほどで終わります)
1/17追記)55名の方にお答えいただきました。ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。結果を集約して後日アップいたします。
1/18追記)アンケート結果をアップしました。

アンケート回答の一部を紹介

「ただただ、見通しがなく不安」

「抗がん剤治療後の維持療法で新薬の経口薬を飲み続けなければなりませんが、高額すぎてこのままだと治療を途中で続けられなくなりそうです。

本来ならとてもありがたい制度ではありますが、所得による格差が大きすぎるし、値上げ額もいきなり大きな額過ぎて、これでは税金をたくさん払っている家庭の人の方が治療を諦めたりすることもこれから起こってくると思います。働いて稼ぐことがバカらしくなるかもしれませんね。」

「高額療養費の引き上げは本当にキツイです。 傷病手当がもらえない職場なので、収入がゼロです。生命保険で抗がん剤か放射線治療をすれば月10万いただけますが高額療養費が引き上げられてはマイナスになります。 1ヶ月に外来と入院があればさらにキツイです 本当に今回の引き上げは止めてほしいです。」

「今は働きながら投薬と検査費用の負担のみなので問題ないが、転移や再発し働けない上に高額な治療費が必要となった場合、金銭的な理由で希望する治療を諦めないといけなくなると思う。」
「今後、再発や転移が起きた時や入院が必要になった時に、金銭的な理由で治療が受けられなくなりそうです。」

「働き盛りの世代にとって高額療養費限度額の引き上げは深刻な問題です。高所得者に該当しますが、限度額は25〜26万。入院と通院は別算出になるため、両方ある月は上限額が合わせて50万程にになります。治療費以外にも通院にかかる交通費、入院に伴う準備品など予定外の支出も増えます。
さらに拍車をかけるのは休職に伴う収入減によって家計に大きな負担がのしかかってきます。現在がん治療中ですが、多少の蓄えがあったとしてもこのままですと家計破綻します。病気をした時、かつ休職した時にに安心して医療が受けられる「生活保障」を優先してほしいと切に願います。」

「ベージニオという高額な薬の治療がまだ続く身としては、毎月の負担が確実に増えることはやっぱり不安です。
一般の方の保険料負担は減る、ということを全面に出されているので、高額療養費を使っていない人たちにとっては、他人事なんだろうな、と悲しくなります。」

「引き上げは家計に響くので治療を続けることは家族に申し訳ないと思います。一方、日本の医療は自己負担がとても少ないので、それを維持することで子どもの世代の負担が増えることも心配です。」

「病気の症状や今後の予後についてだけでも不安なのに、そこにさらに経済的不安が重くのしかかるようなことはやめて欲しい。経済的な理由で治療を諦めなければならないという状況にだけはならないで欲しい。」

「国民皆保険制度が財政的に逼迫していることは理解できるので、ある程度の見直しは止むなしと思うが、年収だけで限度額設定するのではなく、年収✕超高額医療などの組み合わせで限度額を変えたりはできないものかと思う。」

12/28追記)不安を感じている方へ無料相談会のご案内

私が代表を務める一般社団法人患者家計サポート協会では、医療費制度やお金の無料相談会を開催しています。
医療費に関しては、無料相談会で一緒に考えていくこともできますので、お気軽にご利用いただければと思います。

看護師FP®黒田の家計相談のご案内

私、黒田は10年間の看護師経験を持ちながら、「高額療養費では解決できない、がん治療中のお金の悩み」が多くの患者さんにとって大きな負担であることを痛感してきました。FPのお金の知識を活用し、一人でも多くの方に安心した生活を提供したいという思いで、日々活動しています。

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治療費の不安を解消したい方に向けて、マンツーマンで行うオーダーメイド家計相談を行っています。

  • 完全予約制で毎月新規の受付は3名限定です
  • 継続相談が多いため、早めのご予約をおすすめします。
  • 今月の枠が埋まっている場合でも、来月のご案内を優先的にさせていただきます。

筆者プロフィール

黒田 ちはる
黒田 ちはるがん患者さんのお金の専門家 看護師FP®
10年間の看護師経験を活かしたFPとして、がん患者さん、ご家族専門に年間およそ180件の家計相談を行っています。
治療費捻出だけでなく、安心して治療が行えるための生活費や教育費、住居費の悩み解決を得意としています。
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書籍:「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」(日経メディカル開発)